品質データ改ざん問題を解決? 製造業でのブロックチェーン技術の使い方:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
「スマートファクトリーJapan 2019」(2019年6月5〜7日、東京ビッグサイト青海展示棟)の講演に、ブロックチェーン推進協会 代表理事の平野洋一郎氏が登壇。「製造業におけるブロックチェーン適用と可能性」をテーマに、ブロックチェーン技術を製造業の業務プロセスにどのように組み込み、社会改革につなげるのかを訴えた。
品質改ざん問題を解決する可能性があるブロックチェーン技術
デジタルデータは、簡単に完全な形でコピーができ、書き換え可能である特性がある。ブロックチェーンはこのデジタルデータを改ざんできないようにした新しいデータの形式だ。そのため、特に金融業を中心に活用されてきた。しかし、平野氏は「世の中には貨幣などと同じように改ざんされては困るデータは山ほどある」と語る。
「例えば、流通業ではトレーサビリティーデータ、製造業では検査や品質データ、公共では公文書改ざん防止、医療分野では治験データなど、あらゆる領域に存在する。例えば、製造業でも鉄鋼、素材、自動車メーカーが品質データを改ざんし、社会問題となったケースが続出している。ブロックチェーン技術を適用することで、こうした問題を解決できる可能性がある」と平野氏は訴える。
ブロックチェーン技術により改ざんできなくなる仕組みは次の通りとなる。従来のデータベースは、レコードがそれぞれ独立していため、1つのレコードを書き換えても、他のレコードに影響はない。そのため管理者であれば書き換えることが可能だ。一方で、ブロックチェーンは、データ全てがそれぞれに関連性を持ち連鎖する状態となっている。「データが収められているブロックを新たに作成する時には、1つ前のブロック情報(ハッシュ値)が付加され、全てのデータが鎖のようにつながっている。ある部分を書き換えると、それ以降が全て不整合になり、書き換えていることが発覚する。この構造により管理者でも書き換えができない」と平野氏は特徴を説明する。
こうした特性を踏まえた上で活用範囲を考えてみると、製造業も関係するサプライチェーンの情報共有などについて、ブロックチェーン技術は非常に相性のよいことが分かる。
「サプライチェーンのトレーサビリティーを考えると、これまでは素材、部品、完成品の各メーカー、そして流通、小売りへとバケツリレーでデータが送られる状況だった。ただ、これらの情報は独立型のデータベースで管理されているために、途中の企業の管理者はデータを改ざんすることも不可能ではない状況だった」と平野氏は課題を指摘する。これらに対し「サプライチェーンの各工程情報をブロックチェーン技術により記録することで、改ざんは不可能となり、しかも透明性が高くなる。さらには、個別にシステムを開発するよりもコスト削減につながる」(平野氏)と利点を訴える。この他、製造業では、検査や検証データのグループ内での流通や、品質情報の共有などでブロックチェーン技術を活用する動きが出ているという。
ブロックチェーン技術の注意点
ただ、ブロックチェーン技術で信頼性を確保するためには考えておかなければならない点もある。1つが「入力データの適正性はチェーン外で担保しなければならない」という点である。「一度誤ったデータが入るとそれを組み込んだ形から変更できなくなる。そこで、IoTとの連携が重要となる」(平野氏)。
また、蓄積型データには向いているが、頻繁に更新を行うマスターなど更新型データには向かないケースもある。さらに、ブロックチェーン内に書き込めるデータは極めて少ない(数十バイトから数千バイト)ことから、画像や映像などをそのまま入れてしまうことは難しい。
平野氏は「インターネットの登場は、社会構造に大きな影響を与えた。そのポイントとなるワードが『Decentralized(非中央集権)』だ。20世紀型の組織は『階層、規律、統制』型だったが、インターネットにより21世紀型の組織は『自律、分散、協調』型となっている。ブロックチェーン技術はこの21世紀型組織の中で、契約履行の自律化や自動化、価値移転の自律化や自動化、中央管理不要化に貢献し、組織と社会の在り方を変えていくものと期待されている」と締めくくった。
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