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バズワード化するMaaS、そして自動運転ビジネス化への道のりは近くて遠い次世代モビリティの行方(5)(4/4 ページ)

これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。連載第5回では、「第3回ReVisionモビリティサミット」での議論から、自動運転領域における日本の現在地を見据える。

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「MaaS」の2つの定義

 S=共有とサービス化については、昨今MaaS(Mobility as a Service)がバズワード化しているが、MaaSは大別して2つの定義がある。1つは、自動運転には関係なく移動の最適化を実現するサービス。そしてもう1つは、トヨタ自動車の「e-Palette」を代表とする自動運転そのもののサービス化だ。これらはそれぞれを分けて考える必要がある。

 前者について、東京大学 情報学環 准教授の上條俊介氏は「MaaS先進国とされる欧州では、クリティカルマス(一定の利用者数を確保してサービスが爆発的に普及し始めるタイミング)に到達する前に萎んで終わるケースが出てきている」と述べる。そのような中、例えば台湾は、旅行者と出張者の利便性に絞ったものを産官学連携で立ち上げようとしている。この取り組みは、クリティカルマスに到達する可能性が高いのではないかといわれている。

自動運転技術開発のアプローチ
自動運転技術開発のアプローチ(クリックで拡大) 出典:第3回Revisionモビリティサミット、TRI-ADの松尾芳明氏プレゼン資料

 一方、日本ではまだ方向性さえ示されていない。そのような状況で、e-Paletteのような完全な自動運転車両を検討する場合、MaaS社会のどこに使っていくかを検討する必要がある。しかし、「自動運転をMaaSに組み入れるのは時期尚早だ。MaaS社会のどこに使っていくか、それについては、今は解がない」とTRI-AD エーディー・フォーマース ディレクターの松尾芳明氏は指摘する。

 さらに、自動運転車両を街中で走らせるために重要なのは「街のデザイン」である。「次の時代の街作りを行うにあたり、上述の車両からの情報は非常に重要なカギを握るが、その情報を元に街のデザインを考えるにしても了承を得られるまでに約10年かかる。新たな街をつくるのにざっと30年かかるため、今の開発チームは2050年頃の街についてのビジョンを持つ必要がある。そしてその中で、自動運転車や自動駐車システムをどのように位置付けるかといった課題もある。自動車メーカーにしてみれば、これまでのモノづくりを離れてサービス業のような検討を行う必要があるが、自動車メーカーになじまない領域も多いと考えられる」(清水氏)という。

 上述のように、MaaSはバズワードとなりつつあるが、実際のところはその中心を担う可能性がある自動運転の位置付けに関する検討は始まったばかり、というのが専門家の間の共通認識だ。

 自動運転時代を迎えるにあたり、2020年代は過渡期であり、この業界に携わるプレイヤーも現状では暗中模索状態にある。そういった意味では、眞柳氏が指摘するように「CASE自体はすぐにもうかるものではない。CASEへの取り組みが収益化されない中、体力勝負の長期戦になっていくと想定される」ということになるだろう。従って、2020年代は既存のビジネスで収益をあげながら足場を作りつつ、長期的な視野を持って自社の立ち位置を定める一方で変化にも柔軟に対応しながら、本格普及期を見据えた投資に回していくことが重要になるだろう。

筆者プロフィール

吉岡 佐和子(よしおか さわこ)

日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。


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