一度は“折れた”ソードアート・オンラインの剣、製品化の課題をどう克服したのか:デザインの力(2/2 ページ)
SFファンタジー「ソードアート・オンライン」のキリトが使う剣「エリュシデータ」をグッドスマイルカンパニーとCerevoが1分の1サイズで忠実再現した。この忠実再現に伴うトレードオフ要件に対してCerevoは試行錯誤を重ねた。「CES 2018」のプロトタイプではデモを繰り返す中で折れてしまったというが、どのように製品化したのだろうか。
リアルに重たくなった「エリュシデータ」の強度確保に挑む
エリュシデータは、中に仕込まれた6軸のジャイロセンサーで加速度と角度を検知することでユーザーのアクションを認識する。他にも、音声認識用のマイクと多数のLEDなどが実装されている。
作品中でも重たい剣(ゲーム空間内という設定なのでリアルな重量ではないようだが)として表現されているが、製品も片手で持つにはやや重たく感じる仕上がりになっている。エリュシデータの長さは1125mm、重量はバッテリーパックを含んで約1.1kgである。また作品中の剣のスリムな外見を再現するため、同製品もたくさんの実装品を細身の筐体に詰め込んだ形になった。
細身の形状の中には作品中の技を忠実再現するために十分な部品を格納しながら、かつユーザーの大きな動作に耐え得るものにしなければならず、設計的にはトレードオフとなる要件が重なった。例えば、CES 2018に持ち込んだプロトタイプは、デモで使用を繰り返していたところ筐体が破損してしまった。剣のつばの根元付近に大きく負荷が掛かったことで、めきめきとひびが入り割れてしまった。これは、刀身全体に渡って実装した約2000個のLEDの重さに加えて、ソードスキルに対応するアクション動作による加速度が加わることで、つば付近に大きな負荷が掛かったためだ。
また、このプロトダイプは、2000個のLEDを実装したことで刀身の表面がぶつぶつに見え、意匠面でも難があった。さらに、真っ黒な筐体を美しく発光させることは、白っぽい筐体よりも難易度が高まるという。
その後も実機を製作し、ガレージキットのイベント「ワンダーフェスティバル(ワンフェス)」など国内の展示イベントで披露しながら、ユーザーに実際に試してもらったことで、Cerevoの開発側が想定した以上に大きく振り回されることも分かった。開発者の想定以上に筐体に負荷が掛かる上、LEDの光が大きな動きにきれいに追従しないといった問題も出てきた。
製品化に向けては試作と実験を繰り返しながら強度を高めていった。プロトタイプ当時、重量面とコスト面でLEDの数が大きく影響していたため、CerevoはまずLED数の削減に取り組んだ。LEDの数は減らしながらもアクションの再現度が落ちることがないよう、発光量をなるべく落とさないように試みた。最終的にLED数は700個まで削減することができた。また、グリップから柄を通って刀身の付け根までをカバーする金属フレームで筐体表裏を挟み込み、補強を行った。
外観デザイン自体は早期にフィックスしていたものの、先述した重量や強度の改善に時間がかかった。また、2019年6月現在も量産金型の調整中で、製品発売までにより美しい外観の製品を届けられるように、Cerevoとグッドスマイルカンパニーの両社は準備を進めているという。
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