一度は“折れた”ソードアート・オンラインの剣、製品化の課題をどう克服したのか:デザインの力(1/2 ページ)
SFファンタジー「ソードアート・オンライン」のキリトが使う剣「エリュシデータ」をグッドスマイルカンパニーとCerevoが1分の1サイズで忠実再現した。この忠実再現に伴うトレードオフ要件に対してCerevoは試行錯誤を重ねた。「CES 2018」のプロトタイプではデモを繰り返す中で折れてしまったというが、どのように製品化したのだろうか。
グッドスマイルカンパニーとベンチャー企業のCerevo(セレボ)は2019年6月6日、スマートトイ「High-Grade Electronic Toy エリュシデータ(以下、エリュシデータ)」を発表するとともに、予約受付を開始した。人気のアニメ、ライトノベルである「ソードアート・オンライン(SAO)」の主人公・キリトが使う剣を1分の1スケールでスマートトイ化したもので、同日から予約を開始し、2020年4月頃の発売を予定している。日本国内と中国、台湾、北米で販売し、全体で1000本程度の販売数を目指す。
エリュシデータは、剣本体と、充電機能付きのリチウムイオンバッテリーパック、充電および給電用USBケーブル(USB Type-C to USB-A)、クイックセットアップガイド兼保証書で構成。価格は標準版が12万円。さらに、アルミで削り出した金属リングを配し、グリップに羊の本革を巻いた、より格調高い仕様となっているSpecial Editionは15万円。オプション(予備用)のバッテリーパックは7000円(価格は全て税込み)。
これまでに「ドミネーター」や「タチコマ」もスマートトイ化
ソードアート・オンライン(SAO)は、川原礫氏原作のライトノベルおよび、同作品を原作としたアニメなどで展開するSFファンタジー作品だ。西暦2022年が舞台で、PCやITに詳しくて人づきあいが苦手な主人公の少年・キリトが次世代VR(仮想現実)ゲームの世界から出られなくなり、「ゲームオーバーすると、現実の世界でも死亡する」という絶望的な設定の中、「黒の戦士」の通り名で驚異的な戦闘力で大活躍するストーリ−を核として、以降もさまざまなシリーズが展開されている。
エリュシデータは同作品に登場するキリトが所有する片手剣だ。同作品中では“魔剣クラス”の漆黒の剣として表現され、ファンからも人気が高いという。今回は、その剣を1分の1スケールで忠実再現を試みた。
グッドスマイルカンパニーはフィギュアの製造および販売を行う企業で、ボーカロイド「初音ミク」などのディフォルメキャラクターのミニフィギュア「ねんどろいど」、アクションフィギュア「figma」など、さまざまなキャラクターフィギュアのブランドを手掛ける。今回の製品ではプロデュースを担当した。
ハードウェアベンチャーのCerevoは、他社と協業して製品開発に取り組むプロジェクトとして、アニメ作品に登場する武器などを再現するスマートトイ(スマートフォンやタブレット端末などと連携する玩具)に以前から取り組んできた。
過去に開発したスマートトイとしては、アニメ「PHYCO-PASS サイコパス」に登場する特殊拳銃を1分の1で再現した「ドミネーター」※)、アニメ「攻殻機動隊」の多足戦車「タチコマ」の8分の1モデルなどがある。過去製品および今回の製品も、作品のファン層の年齢を反映しメインターゲットは子供ではなく、20歳代以降の成人であり、価格は10万円前後もしくはそれ以上に設定され、玩具の中では高価だ。これらの製品は、ディープなアニメ愛好家やコスプレイヤーなどをユーザー対象にしている。
※)関連記事:「PSYCHO-PASSサイコパス」の特殊拳銃「ドミネーター」再現とIoT
なお、グッドスマイルカンパニーとCerevoは、2016年にニッポン放送と共にワイドFM対応ラジオ「Hint(ヒント)」も開発している。
さまざまな剣をスマートトイ化する「BLADEM」
Cerevo USA(Cerevoの米国法人)は2018年1月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2018」で、エリュシデータのプロトタイプを初披露している。Cerevoが開発した「BLADEM(connected BLAde Development and Evaluation Module)」という、さまざまな作品に登場する剣をスマートトイ化するプラットフォームを活用した製品となる。
スマートトイとしてのエリュシデータは、主人公たちが作品中で参加するネットゲームに登場する「ソードスキル」という攻撃動作を模した動きに反応し、光や音を発生させる。剣から流れるBGMも実際の作品中で流れるものだ。スマートフォンから光量や光色、音声ボリュームの設定が行える。
漫画やアニメ、ライトノベルでは、技の名前を唱えながら技を放つことが多いものの、SAOではそういった場面は少ない。このためスマートトイとしてのギミックは、ユーザーのアクションに反応させる動きがメインになっている。ソードスキルの名称と、それに対応するアクションは以下の通りだ。
- SLANT:斜めに切りつける動作
- VERTICAL:真上から切りつける動作
- VERTICAL・ARC:真上から切りつけ、さらに垂直に切り上げる動作
- HORIZONTAL:水平方向に切りつける動作
- VORPAL STRIKE:突きの動作
- STARBURST STREAM:音声認識もしくはボタンで作動
最後の「STARBURST STREAM(スターバーストストリーム)」というソードスキルは、作中では希少な技名を唱える技であり、それも再現した。作品中では、二刀流による戦闘時のソードスキルだが、ファンからの人気が高いため片手剣1本ではあるものの特別に盛り込んだ。なお、海外向けに販売する場合でも、日本語式の発音に反応するようになっているという。海外でも日本語の音声のままでアニメを楽しむファンが多いことを考慮しているとのことだ。
手元のボタンを使ってソードスキルを反応させる(STARBURST STREAMのみ)、見栄えのいいLED全点灯など、ファンイベントなどでの使用時を想定した機能も備える。稼働時間はLEDの全点灯時で1時間、スキルを連続で作動させた場合で2〜3時間としている。剣の最下部のUSB端子にACアダプターのコードを接続しながら使用することも可能だ。
なお、Special Editionは特注プレート式キャリングケースが付いてくる。同製品は玩具であり本物の刀剣ではないものの、「銃刀法違反」と人から誤解されないよう、人目を配慮しながら持ち運べるようになっている。
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