ガンプラは2次元図面がない:ガンプラ こだわりのモノづくり(3)(1/3 ページ)
ガンダムのプラモデル(ガンプラ)の設計・製造の世界は、家電や産業機械とは随分と違う設計思想やカルチャーを持つ。ユニークなテーマでいつもと視点を変えることにより、モノづくりのヒラメキが得られるかも!?(編集部)
今回は、製品設計チームの業務を中心に説明していく。バンダイのホビー事業部でも、3次元CADを有効に使い設計はしているものの、そこにひも付くデータや作業のすべてがデジタルとは限らない。アナログな作業も設計プロセスに取り入れている。
今回もバンダイ ホビー事業部 製品設計チーム マネージャー 大榎(おおえのき)直哉氏にご登場いただこう。
予備知識:ガンプラのできるまで: | |
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3次元CADは使うけど
第1回でも説明したように、新しいガンプラのシリーズの開発が始まる前に、まずアニメーションの制作元であるサンライズから機体(モビルスーツ)のデザインがホビー事業部の元にやってくる。これがガンプラ設計の大前提となる。そしてこのデザイン画はデジタルデータではなく、手描きがほとんど。着色されている場合もあれば、されていない場合もある。設計の基点がまずアナログデータというわけだ。そしてガンプラは、くどいようだが「アニメ設定ありき」。このデザイン画は、いわゆる、以降の設計製造プロセスにおいて、不動で絶対的な存在となる。
まず、企画開発チームが製品コンセプトを練る。それを基に、製品設計チームが各チームと打ち合わせを重ねながら、設計の基礎となる部分やギミック(仕掛け)の概要を煮詰めていく。アニメーションの設定で機体の外寸や重量が定められているので、それを基準にスケールダウンする。「開発と設計の担当者はプラモデルの製造工程を理解していますが、設計構想の段階で金型・生産チームとの打ち合わせは必要不可欠です。ガンプラは非常にぎりぎりの要件下で製造していますから」(大榎氏)。
さらに上記を基にして、設計概念やデザイン案図、パーツ構成図を設計に入る前の段階で作ってしまう。「これのほとんどを手描きでやります」(大榎氏)。いわゆる「ポンチ絵」で、ガンプラの部品構造の分解図(アイソメ図になっている)やランナーに並んだ部品の図を描く。この時点で描くランナーの配置図は、第2回で説明したように、樹脂流動性などよりも、組み立て順序や枠中の部品のスペース配分を優先して作成する。
このパーツ構成図には、部品それぞれに番号が振ってある。これは工程の最後まで生きてくる。「この番号は仮の部品番号ですが、最終的に金型側に渡すための番号へと変わります」(大榎氏)。部品構成や番号は、以降の検証中に多少の修正がされていく。
上記の資料を基にしてガンプラ全体を3次元CADでモデリングしてから、各部品データに分解する。ここでは、部品が組みあがったときの手足のストローク、ギミックの検証、強度確認などを行っていく。
製品設計がほぼ終了した時点で設計審査(デザインレビュー)を行い、「お客さま相談センター」や品質管理担当など、ガンプラに携わるあらゆる部署の担当たちを招集する。そこで得られたあらゆる角度の情報を取り込み、設計を仕上げていく。
設計完了後の3次元モデルは、金型加工側に受け渡され、NC加工やワイヤカットのデータ作成に利用される。「3次元CADで作ったモデル名の名称と番号をパーツデータリストにまとめます」(大榎氏)。
すでにお気付きだと思うが、上記プロセスでは2次元図面が一切登場しない。製品が完成したときの検査にも出てくることはない。
「2次元データは使用せず、出力した部品図面も組み立て図もありません。部品はパーツデータリストのみで管理します。そうはいっても、完成した製品の全体像を把握するための図は必要なので、3次元CADのCG画像をプリントアウトして代用します。そこには組み上げたときの最大外形寸法しか入っていません」(大榎氏)。
同事業部ではとにかく「企画や設計の意図をすべての工程に対して明確に伝える」ということに重点を置き、設備やITツールの機能を見極めつつ、余計な作業やプロセスの一切を省いている。
だけど昔は、2次元図面があった
1990年代後半(約10年前)は、ちょうど世の中で3次元CADによるモノづくりが普及しだした頃。ガンプラの設計開発の領域でも3次元を導入しようと設計業務の切り替えを検討していた時期だった。当時のガンプラは、JIS規格に基づき2次元CADで案図を描いて設計を行い、設計図面を2次元CADで起こし、それを基に3次元データを作成するという作業を行っていた。
3次元CADのモデルデータが金型加工に利用できるようになったことは大進歩だ。しかし2次元CADデータは金型加工でも必要なため、2次元の図面データは必要だった。
しかし、現在は、NCデータやワイヤカットの輪郭データ、寸法情報などの一切を3次元CADデータから金型加工側で抽出している(第2回参照)。従って2次元の線データも設計チームが用意する必要がないし、2次元図面の寸法も必要がない。この理由については後述する。
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