一人一人に寄り添う家電を目指す前に考えなければいけないこと:製造業がサービス業となる日
アマゾン ウェブ サービス(AWS)は2019年6月12〜14日、千葉県の幕張メッセで、ユーザーイベント「AWS Summit Tokyo 2019」を開催。会期初日の基調講演では、三菱電機 リビング・デジタルメディア事業本部 リビング・デジタルメディア技術部長 朝日宣雄氏が登壇し、グローバルでの家電向けのIoTサービス展開について語った。
アマゾン ウェブ サービス(AWS)は2019年6月12〜14日、千葉県の幕張メッセで、ユーザーイベント「AWS Summit Tokyo 2019」を開催。会期初日の基調講演では、三菱電機 リビング・デジタルメディア事業本部 リビング・デジタルメディア技術部長 朝日宣雄氏が登壇し、グローバルでの家電向けのIoTサービス展開について語った。
操作する家電から暮らしソリューションへ
三菱電機ではテレビやエアコン、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、照明器具などさまざまな家電製品をグローバルで展開している。
従来の家電製品は単体のハードウェアとして完結しているものばかりであった。家電メーカーは「誰もが使える機能」の開発を進め、その中で多機能化を進めてきた歴史がある。しかし、スマートフォン端末などが登場し、アプリなどにより個々に最適な機器を求めるニーズが高まってきた。さらに、ネットワーク接続機能を加えることで、個々の機器で実現できることだけでなく複数の機器やサービスを組み合わせたソリューションを求める要望も高まってきている。こうした中で、家電製品でもネットワーク接続機能を標準搭載する動きが広がってきた。
朝日氏は「従来の家電製品は工場で同じ製品をより多く作り、より多くの顧客に同じものを届けるということを目指していた。そのため製品開発としても『誰もが便利に使える』ということを目指してきた。しかし、ニーズが多様化する中で『一人一人に合わせた機能』が求められるようになった。スマートフォン端末で実現できた世界が家電でも求められるようになった」と述べている。
「暮らしソリューション」の提案が求められる中で、実際に三菱電機の中でもネットワーク接続機能を持った家電を数多く開発し提供するようになってきた。
しかし、ここに課題があったという。「三菱電機ではグローバルで家電製品を展開しており、それぞれの地域に販売会社がある。これらが独自でネットワークサービスを展開するようになり、バラバラの開発を行うようになっていた。さらにそれぞれのサービス環境もオンプレミスで提供しているケースや、パブリッククラウドを使っているケースなど千差万別で、一貫性のない状況が生まれていた。さまざまなサービスをソリューションとして統合的に提供することが求められる中で、これではだめだと考えた」と朝日氏は語る。
そこで、約2年半前から取り組み始めたのが「グローバルIoT基盤」の開発である。グローバルIoT基盤として開発の方向性として定めたのが以下の3つのポイントだ。
- グローバル拠点で共通的に利用できる環境
- サーバレスアーキテクチャにより、各拠点のアプリケーションを統合可能
- 協業するための多くのサービスパートナー
グローバルで共通のサービスを展開することを想定した場合、必須となるのがクラウド環境で、三菱電機では今回の「グローバルIoT基盤」にAWSを採用したという。
「将来性を見据えると新たなアーキテクチャが必要なことは明らかだった。さまざまな方向で検討した結果サーバレスアーキテクチャを選んだ。その中で最新技術はもちろんだが、AWSでは既にさまざまなパートナーが存在するという点は大きな魅力だった」と朝日氏はAWSの利点について語る。最終的に開発に1年を見込んでいたシステムも4カ月で完成し稼働させることができたという。
朝日氏は今後の家電について「『ユーザーがしたいコトを実現する』ということが大事になる。機器として提供するモノと、情報をベースにサービスとして提供するコト、そしてこれらを組み合わせたソリューションだ。これらをさらに拡大し、三菱電機による新たな暮らし空間ソリューションを生み出していきたい」と抱負を述べていた。
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