ほほ笑みの国で進むデジタル変革の波、タイランド4.0における日系製造業の役割:モノづくり最前線レポート(3/3 ページ)
デジタル変革の動きが全世界で同時に進む中、タイでもタイランド4.0とする大きな経済政策が進められている。タイ国内においてこれらの変革を推進するのに、大きな役割を果たすと期待されているのが日系企業である。JETROバンコク事務所所長の三又裕生氏と工業団地の運営を行うIAETの総裁であるソムチット・ピルーク氏に、タイのデジタル変革の現状と、日系企業への期待について聞いた。
タイの工場団地を管理するIEAT
次に、タイ工業団地公社(Industrial Estate Authority of Thailand、IEAT)の取り組みと日系企業への期待について紹介する。
IEATは、タイ国内の工業団地の設立や管理を行う団体である。現在までにタイ国内の16県に55の工業団地を設立し、その内42カ所は民間に運営を移管し、13カ所はIEATが直接投資および運営を行っている。現在までに全世界から6000社の工場が進出し、1200億ドルの投資を行っている。また、11カ所のタイなどの港の管理なども行う。
IEAT総裁のソムチット・ピルーク(Somchint Pilouk)氏は「これらIEATが携わる工業団地の発展は、多くの日本企業の進出によって支えられているという面もある。生産拠点として主要な製造業の多くがタイに拠点を早くから持っているためだ」と語る。
タイランド4.0と東部経済回廊の強化
IEATが現在強化に取り組んでいるのが、東部経済回廊(EEC)の強化である。タイ政府が「タイランド4.0」の重点分野の企業誘致を進め集積化に取り組むのが、このEECエリアであるからだ。EECは、チョンブリ県とラヨーン県、チャチェンサオ県の3県をまたがるエリアである。ピルーク氏は「もともとEECには多くの工業団地があり、進出企業も多かったが、さらにタイランド4.0の重点領域の企業が進出できるように支援していく。EECをいかに拡充するかが大きなテーマだ」と語る。
その理由として「産業の変化」をピルーク氏は挙げる。「現在の景気だけを見ると非常に良い環境だが、これらの状況は破壊的イノベーションにより、一気に変わる状況がある。例えば、デジタルカメラがスマートフォン端末に一気に需要を奪い取られたように、見過ごしていればあっという間に変化する。こうした状況を避けるためにも準備をしていくことが重要だ」とピルーク氏は語る。
その中で「工業団地の1つの付加価値としたい」とピルーク氏が語るのが「スマート化」である。ピルーク氏は「日本は高齢化が他の国々よりも早く進んでおり、労働者が減少する傾向にある。一方でタイも人件費高騰や、労働人口減少などで、今後同様の状況に陥ると見ている。その中でテクノロジーによってこれらの人手不足に対応していく必要が出てくる。ロボットの活用やAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用である。日本はこれらの動きで一歩進んでおり、こうした技術的支援が得られればと考えている」と日本企業への期待を述べている。
加えて、これらのIT化を進める中で大きなポイントになるのが中堅、中小企業のAIおよびIoT活用である。これらの支援を行うために、IEATの管轄する工業団地内で10カ所に「インダストリアルプラットフォームセンター(IPC)」を設立する計画を示す。
「工業団地として価値を創出する意味でも、スマート化に最適な拠点としていく。これらの支援も含めて取り組めるようにしていきたい」とピルーク氏は考えを述べる。
IPCの設置場所については「現在までに6カ所は決まっているが、さらに増やしていく。中堅企業のIT化など技術を支援する役割を担う。工業団地内の大企業がIPCを通じてメンターとなり、製造業のIT活用やデジタル化を振興するような仕組みを目指している。こういう取り組みに日本企業にも参加してもらいたい。自動化の面、IT活用の面それぞれで日本企業には大きなノウハウがあると考えている。そうした知見を活用してもらいたい」とピルーク氏は語っている。
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