デジタル技術が変革する新たな産業の姿、求められる技術と社会のバランス:モノづくり最前線レポート
「第8回 IoT/M2M展 春」(2019年4月10〜12日、東京ビッグサイト)の「デジタルトランスフォーメーションの最前線」をテーマとした特別講演に経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 企画官の和泉憲明氏が登壇。「デジタルトランスフォーメーションの推進と組み込み、IoT業界における動向と展開」と題して、デジタルトランスフォーメーションの方向性について紹介した。
「第8回 IoT/M2M展 春」(2019年4月10〜12日、東京ビッグサイト)の「デジタルトランスフォーメーションの最前線」をテーマとした特別講演に経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 企画官の和泉憲明氏が登壇。「デジタルトランスフォーメーションの推進と組み込み、IoT業界における動向と展開」と題して、デジタルトランスフォーメーションの方向性について紹介した。
技術だけではなくビジネスとして考える意味
AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、クラウドなど最先端の技術の活用は、もはや新たな驚きを与える段階ではなく、使用するのが当たり前のフェーズに入りつつある。多くの企業において、具体的な使い方の検証が進んでおり、実際にビジネスに活用し成果を生み出すケースも増えつつある。
その1つの例として和泉氏は、米国のシアトルでAmazon.comが展開する、レジに人がいない無人コンビニである「Amazon Go」を紹介した。「Amazon GO」はスマートフォン端末を携えて店舗に入って端末の認証を行い、欲しい商品を持って出るだけで簡単、スムーズな決済を可能にしている。その上、品ぞろえも豊富であり「万引き」などの被害を受けづらいなどロスが少ない。
和泉氏は「レジがあるかないかで話題を集めているだけではなく、しっかりビジネスとしての競争力を持っていると仮説を立てた」と語る。その上で、日本で実証などを行っている同型の店舗の状況と比較すると「テクノロジーの要素技術は、ほぼ同レベルだが、ビジネスモデルへどう組み込むかという点、さらに、組み込んだビジネスモデルがどう変わったかという点で大きな差がある」と和泉氏は指摘する。こうしたデジタル技術による産業の変革の動きを受け、今後の政策の方向性をどう立てるかに頭を悩ましているという。
一方、米国内のアラスカ航空での事例なども紹介する。アラスカ航空では、機内のWi-Fiおよび情報配信サービスを充実させている。乗客は機内に入るとタブレットを取り出し、すぐに映画を見始めた。その映画は国際線と同じく最新の作品で乗客はそれぞれがイヤフォンを装着して楽しんでいる。座席の背に画面はなく、機内設備はダウングレードしているといえるが、民間の企業と連携すると乗客へのサービスのレベルは上がる。
和泉氏は、この例について「デジタルトランスフォーメーションとは、ビジネスモデルを変えることでサービスのレベルを上げることができる。このように事前に想定することが、難しい領域に競争をシフトしていくことによって、先導者が競争優位性を確保することが1つのポイントとなる」と指摘した。
デジタルトランスフォーメーションに必要な技術と社会のバランス
デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、技術が社会を変えるのではなく、技術と社会のバランスが取れた時に普及するという考え方が必要となる。「テクノロジーに関しては、要素技術の進化に取り組みながら世の中の関心を引くという取り組みが必要になる。両面の要素を満たしながら、大量のユーザーを獲得するような形に作り込むことが重要だ」(和泉氏)とする。
デジタルトランスフォーメーションを取り入れ、成果を生んだ事例の中で和泉氏は「宮崎大学医学部の電子カルテなどは非常に良い例だ」と語る。
これはスマートフォン端末を使った情報管理である。看護師が持ち歩いている入力端末には、文章を書き入れない。基本的にはQRコードをタッチして患者を認証し、点滴、注射、投薬などを行う。メモを書くということはなく、患者が床ずれを起こすなど変化が起こった場合は、スマホで撮影し、それをカルテに張り付ける。
これにより、看護師はスマホの充電以外にナースステーションにいちいち戻らなくても看護作業ができるようにという。その間、患者のもとに居続けることが可能でサービスの向上につながっている。さらに、残業も減り、看護師の離職率も大幅に減少した。「モバイルを自然に使うことで、手書きなどによる再入力作業が無くなり、それらの負担軽減が結果的に医療のレベルアップとコストダウンにむすびついた」(和泉氏)と評価した。
その他、パリの地下鉄のケースも紹介した。地下鉄ではイベントの開催などで最寄りの駅が混み合うことがある。地下鉄は自動運転を行っており、運転手は不在であるが、オペレーターの権限で臨時便を増発することが可能で、それにより輸送が最適化を図っている。これらの取り組みで、事前に想定された混雑などの状況に対処している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- コンビニやドラッグストアで進む電子タグ採用、リアル店舗データ化への挑戦
流通情報システムの総合展示会「リテールテックJAPAN 2019」の「流通システム標準化の最新動向」をテーマとしたセミナーに、経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 係長の加藤彰二氏が登壇。「サプライチェーン流通・消費情報の活用へ向けた取り組み」と題して「電子タグ1000億枚宣言」をはじめとする流通におけるデータ活用の方向性などについて、講演を行った。 - パナソニックがコンビニ運営に踏み出し、ファミマは無人店舗をためらわず
ファミリーマートとパナソニックは2019年4月2日、パナソニックの佐江戸事業場(横浜市都筑区)の一角に建設していた、IoT(モノのインターネット)を活用する次世代型コンビニエンスストアの実現に向けた実証実験店舗となる「ファミリーマート 佐江戸店(以下、佐江戸店)」を報道陣に公開した。 - 越える業種の壁、トライアルが目指す流通革命とパナソニックが目指す工場外自動化
人手不足に悩む流通業界だが、改革を実現するには何が必要だろうか。トライアルカンパニーは、ITとオートメーションの活用に活路を求めた。トライアルカンパニーがパナソニックと組んで取り組む、流通改革の現場を追う。 - 物流崩壊から2年、ユニクロが全自動倉庫に取り組む理由(前編)
ユニクロなどを展開するファーストリテイリングとダイフクは2018年10月9日、戦略的グローバルパートナーシップを結んだことを発表した。全自動倉庫を含む物流の抜本的効率化に共同で取り組む。本稿では前後編に分け、ファーストリテイリンググループの物流改革の取り組みと全自動倉庫の全容について紹介する。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。 - 乗るしかない、この第4次産業革命というビッグウエーブに
本稿では、第4次産業革命という言葉の持つ意味、第4次産業革命を推し進める「デジタライゼーション」と「デジタルツイン」、第4次産業革命で重要な役割を果たす世代、そして第4次産業革命において日本の持つ可能性などについて解説する。 - 日本版第4次産業革命が進化、製造含む5つの重点分野と3つの横断的政策(前編)
経済産業省は2017年3月に発表した日本版の第4次産業革命のコンセプトである「Connected Industries」を進化させる。より具体的な取り組みを盛り込んだ「Connected Industries 東京イニシアティブ 2017」を新たに発表した。本稿では2回に分けてその内容をお伝えする。 - 「第4次産業革命」に抵抗感? 調査で分かった日本の製造業の本音
IoTやAIなどを活用する「第4次産業革命」の動きが活発化している。しかし、国内外の企業を調査したアンケートでは、日本の製造業はこの革命に積極的な姿勢を見せているとは言い難い。いわば、第4次産業革命に対してやや及び腰になっているといえる。 - 第4次産業革命って結局何なの?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起こることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第1回目はそもそもの「第4次産業革命とは何か」を紹介します。