サプライチェーンの抜本的変革目指す製配販連携協議会、インバウンドにも対応:リテールテックJAPAN 2019
流通情報システムの総合展示会「リテールテックJAPAN 2019」(2019年3月5〜8日、東京ビッグサイト)の「流通システム標準化の最新動向」をテーマとしたセミナーに花王グループカスタマーマーケティング 流通開発部門 KCT推進部 部長の斎藤伸也氏が登壇。「多言語商品情報プロジェクトと製配販連携協議会の動向」と題し講演を行った。
流通情報システムの総合展示会「リテールテックJAPAN 2019」(2019年3月5〜8日、東京ビッグサイト)の「流通システム標準化の最新動向」をテーマとしたセミナーに花王グループカスタマーマーケティング 流通開発部門 KCT推進部 部長の斎藤伸也氏が登壇。「多言語商品情報プロジェクトと製配販連携協議会の動向」と題し講演を行った。
訪日外国人増加への対応
製配販連携協議会は、消費財分野におけるメーカー(製)、中間流通や卸業(配)、小売業(販)の連携により、サプライチェーンの抜本的なイノベーションや改善を図り、それにより産業競争力を高めることを目指している。流通システム開発センターと流通経済研究所が共同して運営しており、参加企業はメーカーが22社、卸売業が9社、小売業が22社の計53社に及ぶ。
2011年5月に正式発足し、3年を1つのフェーズとして活動を進めてきた。第1フェーズでは、返品削減や配送最適化などの問題をワーキンググループ(WG)の形で議論し、課題解決を目指した。第2フェーズでは、日用品と食品に分けて、配送の最適化と返品削減についての具体的な解決策とその実装の検討に入ったとする。今回の講演のテーマである多言語商品情報プロジェクトは、2015年度からWGで話し合いを開始し、実証実験後に事業化したとしている。
多言語商品情報をテーマとしたプロジェクトを開始した背景には、訪日外国人客の増加がある。訪日外国人客の数は2018年に3000万人を突破した。政府が掲げる目標では2020年に4000万人、2030年に6000万人が設定されており、それに伴い訪日外国人の買物消費額も大幅な増加が見込まれている。
一方で、訪日外国人客が日本でショッピングをする際には、言語の問題(説明、価格表示)で不満や心配を感じるケースが多くなっているという。こうした状況に対し、訪日外国人客向けの商品情報提供による販売促進、メーカー発信の正確な商品情報の収集と提供サイクルの確立を同プロジェクトでは目指している。特に、1つのターゲットとして2020年を位置付け、訪日する外国人の買い物支援に向けたオールジャパンによる多言語化の取り組みを進める方針だとしている。
訪日外国人はどういう点に不満を感じるか
現在、訪日外国人が購入する商品で割合の高いものは、菓子類、化粧品、医薬品など。以前の「爆買い」といわれるものから、店頭で商品を選ぶようになっており、そうしたことから、商品の情報をより分かりやすく提供する重要性が高くなってきた。
プロジェクトでは初年度に情報提供の方法を検討し、基本的な考え方をまとめた。まず、多言語対応用の商品情報のデータプールを用意し、スマートフォン用のアプリを通じて商品情報を見てもらうという実証実験を店頭で実施した。
仕組みは、商品情報の基本となるJANコード、商品名、画像をプールし、商品の特徴や使い方などの詳しい情報については、メーカーのWebサイトにリンクするという形をとった。また、商品のカテゴリーに関してはJICFS(ジクフス)分類を多言語化して表示した。見え方は、商品の情報によって変わり、詳細情報がある場合にはメーカーのWebサイトにリンクをして表示する。重要な点は、商品のバーコードをスキャンするだけで、見ることができるところにある。
訪日中国人にこの取り組みについてアンケートをとったところ「カテゴリー名、写真、商品詳細情報など全ての情報がそろっている場合は使いたい」とした回答者が8割を超えたという。ただこれらの情報が足りない場合は使いたいとする回答者が少なく「いかに情報をためるかということが課題となっている」(斎藤氏)という。
この取り組みは準備期間を経て、2018年5月末から本格運用を開始した。実証実験での仕組みを作り直し、環境整備を行い、多言語用の商品のデータプールを新たに構築した。さらにスマホ用のアプリ「Mulpi(マルピ)」を、新たに開発した。なお、現在、同サービスで提供している言語は日本語をはじめ英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語となっている。
データプールにためる情報は、業界の商品データベースと連携。メーカーの公式情報を提供しているが、同じようなデータをサービスしているベンダーとも既に連携を開始した。また、PB(プライベートブランド)などもデータプールを通じて連携していく方向だ。さらに、メーカーの中では翻訳面などで詳細の情報を作れないところには、翻訳会社なども組織化して支援できる体制を整えるという。商品の追加情報の欄では、商品の特徴、使用上の注意の他に、メーカー側が用意するWebサイトのURLを掲載するなど柔軟性を持たせている。動画などを使った紹介ページにつなげることもでき、利用価値は大きいとしている。メーカーに対するサポートも手厚くする方針で、翻訳の他、情報提供のページの作成なども検討している。
国内消費が低迷する中、増加し続ける訪日外国人客に対し、こうしたサービスを提供することで、買い物需要がさらに喚起されることとなり、メーカー、流通といった関係機関それぞれで次のような効果が期待できる。メーカーでは、訪日外国人客や国内消費者が、自社の商品詳細情報Webサイトにアクセスすることで、商品の正しい使用や服用、摂取方法などの情報提供ができる可能性が高まる。卸売業では、得意先などに対する個別の多言語情報提供業務が軽減される。小売業では、この取り組みによる共通インフラを利用することにより、極めて低コストで訪日外国人客への買物支援が可能となる。
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