「部分最適」では逆効果――万全な品質コンプライアンスを構築するポイント:事例で学ぶ品質不正の課題と処方箋(2)(3/3 ページ)
相次ぐ品質不正から見える課題とその処方箋について、リスクコンサルタントの立場から事例を交えつつ解説する本連載。連載第2回目となる今回は、品質コンプライアンス対応で陥りやすい問題に焦点を当て、各企業において取るべき施策の検討材料を提供します。
全社的な取組みの全体像:「コンプライアンス」への偏重が破綻を招く
品質不正の原因は、品質保証部門の独立性、品質保証部門や生産部門の人員と教育、工程や検査能力の問題として整理されがちです。しかし、実際のビジネスプロセスに鑑みれば、生産や品質にはその前提にある顧客ニーズの把握、調整に関わる営業部門、人員管理を行う人事部門、原価管理を担う経理部門や経営企画部門、設備投資に関して意思決定を行う経営陣等、全社的な関与があります(図表3参照)。
また、顧客との取り決めを順守するための前提として、試験や検査能力が不足していることが懸念される場合、設備投資不足や主要技術の海外拠点移転やスキル継承不足などの課題が存在することも考えられます。
こうした事業上の課題に光を当てないままコンプライアンス対策だけを進めても、現場に響かず上滑りするだけでかえって新たなひずみを生じさせることとなりかねません。各現場の声を確認しながら取り組みを進めるべく、コンプライアンス意識調査7)を実施しその結果を踏まえて施策を検討することも有効です。
7)コンプライアンス意識調査の詳細は、前掲KPMG Insight Vol.36(2019年5月号)「『やって終わり』にしないコンプライアンス意識調査 〜2018年度を振り返り、令和時代に備える」参照
最後に
多くの企業の品質不正を見てきた筆者の経験上、品質不正の背景には前述したような全社的な課題があることがほとんどです。品質不正はモノづくりを誇りとしてきた日本企業が、グローバルビジネスに求められるスピードやルールへの対応を進める中で重ねてきた無理、ひずみの帰結として表れてきた事象のようにも見受けられます。
品質不正の発生原因を矮小化することなく真因を追求し、企業全体としての事業戦略のなかで品質コンプライアンスを捉え直していかねば、引き続き品質不正は発生し続けるものと考えます。
筆者紹介
水戸 貴之
KPMGコンサルティング シニアマネジャー
法曹団体を経て現職。品質コンプライアンス対応支援、グローバル法務・コンプライアンス組織/制度の策定・運用・高度化・モニタリング対応支援、海外子会社管理支援等に従事する。法務・コンプライアンス対応に関する執筆・講演実績多数。
近時は、グローバル企業におけるジェネラルカウンセル機能の日系企業への導入やLegal Techを活用した法務・コンプライアンス業務の効率化・高度化についても取り組んでいる。
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