IHIが前年度比14.1%の増益、今後の鍵は不適切検査があった航空機エンジン事業:製造マネジメントニュース
IHIは2019年5月8日、東京都内で決算説明会を開き、2019年3月期(2018年度)の連結営業利益が前の期から14.1%増の824億円となったことを発表した。売上高は同6.7%減の1兆4834億円と減収だったが、当期純利益は同381%増の398億円と躍進した。
IHIは2019年5月8日、東京都内で決算説明会を開き、2019年3月期(2018年度)の連結営業利益が前年度比14.1%増の824億円となったことを発表した。売上高は同6.7%減の1兆4834億円と減収だったが、当期純利益は同381%増の398億円と躍進した。
同社は2019年3月に、航空機エンジン事業で不適切検査が行われていたことを公表している。同事業が含まれる「航空・宇宙・防衛」セグメントは同社売上高の3割超を担うコアビジネスだが、2018年度営業利益は前年度比から約23%の減益に落ち込み、2019年度もさらなる減益を見込む。
民間航空機エンジンのアフターサービス事業に注力する方針を立てる同社は、不適切検査で生じた品質不信を払拭し、操業停止中の工場を早期に稼働再開ができるかどうかがカギになりそうだ。
PW1100G部品製造ビジネスの採算性と政府のFMS活用推進に悩む
2018年度連結決算のセグメント別内訳では、「資源・エネルギー・環境」の売上高が前年度比23.1%減の3770億円、営業損益は33億円の黒字に回復したが営業利益率は0.9%と低迷が続く。「社会基盤・海洋」セグメントは売上高が同7.4%減の1431億円、営業利益は同2.2%増の142億円。「産業システム・汎用機械」セグメントの売上高は同3.9%減の4410億円、営業利益は同22.3%増の231億円。「航空・宇宙・防衛」セグメントの売上高は同6.1%増の4922億円だが、営業利益は同22.8%減の464億円に落ち込んだ。
2019年度の連結業績見通しは、売上高が前年度比5.6%減の1兆4000億円、営業利益が同3.0%減の800億円、当期純利益は同12.3%減の350億円を見込む。各事業セグメントで最も大きい134億円の減益を見通すのが航空・宇宙・防衛セグメントだ。
航空・宇宙・防衛セグメントの利益が低迷している最大の要因は、プラット&ホイットニーの民間航空機エンジン「PW1100G-JM」の部品製造ビジネスにある。IHIはPW1100G-JMの開発プログラムに2011年9月から参画し、ファンモジュールなどの重要部品の生産を2015年から立ち上げている。同社は当初、コストダウンが進まず採算性は低いが売り上げが急増する2016〜2017年度をセグメント業績の底として見込んでいた。
しかし、同エンジンに初期トラブルが発生したことで受注は伸び悩み、同時期の業績は結果として好転することとなった。一方で、2018年度から同エンジンの受注が伸びてきたものの、素材価格の高騰や生産効率改善が目標未達で終わったことによりセグメント業績の底が2019年度へずれる結果となった。
また、防衛省向けエンジン事業でも逆風が吹く。政府は防衛装備の調達について米国FMS(対外有償軍事援助)を活用する指向を強めており、そのあおりを受けて部隊装備品の維持整備費用が圧縮されつつある。この流れを受けて「防衛関係の予算を下げざるを得ない」(IHI社長の満岡次郎氏)と判断した同社は、2019年度計画で同事業の受注高と売上高をともに前期実績から引き下げている。
2018年度決算と同時に発表された中期経営計画「グループ方針2019」では、2021年度までにROIC(投資資本利益率)を10%以上、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)を80日以下、営業利益率を8%以上とすることを掲げる。その立役者となる航空・宇宙・防衛セグメントでは、民間向けアフターサービス事業に注力する姿勢を改めて打ち出し、整備拠点の拡充、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した品質確保能力の強化を行う方針だ。
IHIは航空機エンジン事業の不適切検査事案について調査結果をとりまとめ、2019年5月10日に国土交通省航空局へ報告書を提出する予定だ。民間航空機エンジンのアフターサービスを行っている同社瑞穂工場(東京都瑞穂町)は現在自主的に操業を停止している。同工場の本格的な操業再開は「いつというのは申し上げられない」(満岡氏)としつつも、操業再開に向けて「手を動かし始めるのは5月中という想定だ」とした。
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