IoT導入への取り組み、日本企業は遅い? ボーダフォンが語る:製造マネジメント インタビュー
グローバルから見た日本製造業のIoTはどのような立ち位置にいるのか。グローバル市場を対象とした「IoT普及状況調査レポート2019」を取りまとめるボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパンで、IoTジャパン カントリーマネージャーを務める阿久津茂郎氏に聞いた。
調査会社のガートナー ジャパンが提唱する「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」で、IoT(モノのインターネット)はいよいよ「幻滅期」に入った。過熱気味にもてはやされた「過度な期待」のピーク期を抜け出し、日本企業は冷静にIoTの価値やIoTを用いたサービス、ソリューションを検討できる段階に入ったということだ。
グローバルから見た日本のIoTはどのような立ち位置にいるのか。グローバル市場を対象とした「IoT普及状況調査レポート2019」を取りまとめるボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパンで、IoTジャパン カントリーマネージャーを務める阿久津茂郎氏に聞いた。
IoT導入は待ったなしの状況、日本企業の取り組みは……
IoT普及状況調査レポートは2019年版で6回目の実施となる。対象企業は自動車、保険、エネルギー、製造、金融、小売りといった幅広い業種にわたり、従業員数が250人以下の中小企業から5万人以上の大企業までグローバルの計1758社から回答を得た。
ビジネスへのIoT導入を尋ねる設問では、調査対象企業の34%が既に導入済みと回答。前回調査(2017-2018年版)の29%から5ポイント上昇した。中でも、アジア太平洋地域の企業ではIoT導入率が43%にものぼり、グローバル平均と比較しても高い比率を示している。また、IoTを導入したアジア太平洋地域企業の内、76%が導入段階について試用を終えていると回答した。
このデータからも日本企業のIoTに対する取り組みは進んでいるかのように思えるが、阿久津氏は「アジア太平洋地域には中国やインドも含まれており、この2カ国の企業が数値を押し上げている。日本企業はアジア太平洋地域の数値よりも低い導入率にとどまっているのではないか」と指摘する。
その理由として、阿久津氏はリスクを恐れる日本企業の気質を挙げる。「少しづつIoTのPoC(概念実証)を始めていても、少しづつしか結果はでない。中国やインドの企業を見ると、彼らはビジネスへのIoT導入も大きな1歩で始めることで大きな成果も得ている。こうした外国企業に後れを取らないため、日本企業も自らのIoTに対する取り組みの段階を認識してほしい」(阿久津氏)と警鐘を鳴らす。
調査結果からもIoT導入は待ったなしの状況であることがうかがえる。IoT導入企業の74%が「IoTを導入しなかった企業は結果として5年以内に市場から脱落するだろう」と回答している。一方で、IoT導入や展開に対するハードルは年々と低下しており、81%のIoT導入企業がサードパーティーの専門知識を既に利用、または利用を計画しており、特に社内向けのIoTプロジェクトでは既製品を用いてサービスを開発するケースが増えているとする。
さらに同レポートの2019年版から「IoT洗練度指数」という独自の指標を用いて、収益性やコスト削減効果に対するIoT導入メリットを分析している。このIoT洗練度指数はIoT導入に対し、流行りに乗るのではなく独自の経営戦略に則って事業が策定されたかという「戦略性」と、どれほどのIoTプロジェクトを展開しているのかという「導入規模」の2軸がともに高い状態(バンドA)が高い洗練度とされ、ともに低い状態では低い洗練度(バンドE)にとどまる。
同レポートでは洗練度指数が高いほど、IoT導入が収益上昇に貢献したと回答があった。バンドAでは87%もの企業がIoT導入によって収益増加に貢献したと回答したが、IoT導入から2年以内や小規模トライアルを実施中の企業が含まれるバンドDでは17%の回答にとどまった。また、収益性やコスト削減比率についても洗練度指数が高くなればなるほど、これら数値が改善することが確認されたという。
阿久津氏は「やはりIoTはやらなくちゃいけない。やらないと市場で負けてしまうというのが一般的な考えとなってきた」と指摘する。日本の製造業におけるIoTへの取り組みについては「生産性向上などを目指した自社工場へのIoT導入は始めやすく、効果を上げている企業もある。一方で、自社製品をIoT化して顧客に提供するサービス系IoTは中々進んでいない。われわれは日本企業がIoTで勝つための方法をグローバルでサポートしていきたいと考えている」と語った。
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