「応用型演繹法」の実践と天気予報:IoTのイノベーションは問題解決から(9)
前回は「応用型演繹法」を実践するために「個別の状況に合わせた天気予報にするには」という宿題を出しました。今回はその宿題について解説します。
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前回の宿題「個別の状況に合わせた天気予報にするには」のロジックツリーを完成させたみなさんは、実に多様なアイデアが生まれたのではないかと思います。今回は宿題の解説を行っていきますので、作成された手順と内容を比較しながら読み進めてください。
まず初めに「個別の状況に合わせた天気予報」とは、別の言い方をすると、「細かなエリアでの天気予報」とも考えられるのではないでしょうか。「細かなエリアでの天気予報の実現」が可能になれば、1つ問題は解決できるということになります。では、その実現を可能にするための具体策を思い付くものから挙げてみます。
- 気象予報に使用しているコンピュータを高性能化し、より細かな予測ができるようにする
- 天気予報の情報を取得する間隔を短く、また、取得エリアも細分化できるようにする
- 各地における現在の天気情報を取得し、近隣エリアに対して、直前の天気を予測できるようにする
まずは思い付きで3つの解決策を記しました。これを「モレなく、ダブリなく」のMECE(ミーシー)なロジックツリーにする場合、具体性でレベルを合わせるとともに、上位概念や下位概念を充実させる必要があります。では具体的に見てみましょう。
2.と3.は計測する間隔を短くしているという共通項がありますが、2.は時間間隔だけに言及しているのに対し、3.は「各地の現在の天気情報を取得し〜」と、より具体的ですね。
つまり、3.は2.の下位概念と言ってよいと思います。
では、2.「天気予報の情報を取得する間隔を短く、また、取得エリアも細分化できるようにする」を具体的に実現する方法を他にも探してみましょう。気圧や湿度、雨雲の変化から天気を予測することを考えた方も多いかと思いますが、これらは「天気の変化の前触れ情報から各地の天気を予測する」でまとめられそうです。
続いて、「実際の周辺の天気」「変化の前触れ情報」以外には何があるでしょう。演繹法においては別のコラムで紹介しているのですが、思い付きだけで終わってしまわないよう、「3つにこだわる」というルールを設けています。世の中にある3つの言葉(「陸・海・空」「大・中・小」「過去・現在・未来」など)に当てはめて考えると便利です。
例えば先ほどの、「実際の周辺の天気」「変化の前触れ情報」ですが、「実際の周辺の天気」は既に天気が分かっているということで“過去”、「変化の前触れ情報」は予測したいエリアにとっては、これからの天気ということで“未来”と置くと、“現在”が抜けていることになります。
天気にとっての“現在”は、今まさに天気が変わろうとしている状態と考えると、「予測したいエリアの上空で天気が変化した瞬間に、地上の天気を予測する」というのが見つかりました。上空で天気が変わった瞬間から実際に地上で天気が変化するまでタイムラグが発生すると思われますので、少し未来の天気の変化が予測できますね。
これで、2.「天気予報の情報を取得する間隔を短く、また、取得エリアも細分化できるようにする」に対する3つの下位概念が見つかりましたので、今度は目線を変えて、並列する上位概念を見てみましょう。
最初に思い付いていた内容は以下の2つでした。
- 気象予報のコンピュータを高性能化し、より細かな予測ができるようにする
- 天気予報のタイミングを予測がしやすい短い時間にして、細かなエリアに対応する
これらは同等と考えてもよさそうですので、1.もロジックツリーに組み込みましょう。その上で3つ目を探すために、それぞれを並列の概念になるように言い換えてみます。
- コンピュータを高性能化する
=コストを増やして天気予報の精度を向上する - 大規模な計算をしなくても予測ができる短時間での天気予報にする
=短期用の情報に変える
ここから、上位概念は量と時間に関する内容だといえますね。これらに対応する世の中にある3つの言葉としてQCD(Quality:品質、Cost:コスト/量、Delivery:納期/時間)が適用できそうです。既にCとDが使用されているので、残るはQにあたる解決策を考えるとどうでしょう。「天気予報の材料となる情報の品質を向上する」と考えると、「天気予報に使用する情報源の数を圧倒的に増やす」「現在あるセンサーの品質を上げて情報の精度を向上する」「天気予報に使用する情報の種類を広げる」あたりが出てきそうです。
「コンピュータの高性能化」も同じ手順で進めていくと、図のようなさまざまな解決策を網羅したロジックツリーができ上がりました。次回はここにIoTを絡めていきたいと思います。
なお、前回までに出てきた「急な雨に困った」に対する他の3つの原因群も同様に演繹法で広げることができますので、練習問題としてチャレンジしてみてください。
筆者プロフィール
株式会社VSN 馬場 秀樹
2000年にVSNに入社。インフラエンジニアとしていくつものプロジェクトに参画。VSNの“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」の構想メンバーであり、一流コンサルタントより問題解決手法の教示を受け、多くの問題解決事案に携わる。派遣会社でありながら、担当した事案には、数億円規模の売り上げ向上につながった例も。
現在は、同社「経営イノベーション本部」にて今後の事業の根幹を担うVIをさらに加速させるべく、事業計画の立案や浸透・推進を行う。
株式会社VSN https://www.vsn.co.jp/
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