生体分子の振動波形のひずみにより、体内時計の24時間周期が保たれる:医療技術ニュース
理化学研究所は、体内時計が約24時間周期で時を刻む仕組みは、高温で生体分子の振動波形がサイン波よりもひずむことが重要であることを明らかにした。今後、波形の解析による体内時計の詳細なメカニズム解明が期待される。
理化学研究所は2019年2月21日、体内時計が約24時間周期で時を刻む仕組みは、生体分子の振動波形が高温でひずむことが重要であることを解明したと発表した。同研究所数理創造プログラム 研究員の黒澤元氏らの研究チームによる成果だ。
生物の体内時計は、化学反応のネットワークによって構成される。化学反応は一般に、温度が高くなるほど速く進むが、体内時計の周期は、温度に関係なく約24時間でほとんど変わらない。この性質は「体内時計の温度補償性」と呼ばれる。研究チームは今回、体内時計の数理モデルを解析し、化学反応の速さと体内時計の周期との関係式を導き出した。
まず、振動波形の違いに着目し、振動波形のひずみの大きさをサイン波からのズレの大きさとして定量化する指標を導入した。サイン波からのひずみの指標は、波形を周波数解析した際の「高い周波数成分の大きさ」として計測できる。次に、体内時計の制御ネットワークを模した数理モデルを構築し、その周期を導出した。その結果、体内時計の周期は化学反応の速さに反比例し、波形のひずみの大きさに比例することが分かった。
この結果から、温度が高くなっても体内時計の周期が安定である(温度補償性を持つ)ためには、高温であるとともに、サイン波よりも生体分子の振動波形がひずむことが必要だということが明らかになった。
今後、生体分子の時系列波形について、高精度な測定による実験検証が実施されれば、波形の解析による体内時計の詳細なメカニズム解明が期待できるとしている。
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