「はやぶさ2」は舞い降りた、3億km彼方の星に、わずか1mの誤差で:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(13)(4/4 ページ)
2010年6月の「はやぶさ」の帰還に続き、日本中を興奮の渦に巻き込んだ「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン。成功の裏には、次々と起こる問題に的確に対処したプロジェクトチームの対応があった。打ち上げ前からはやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。
はやぶさ3のタッチダウン運用はどうなる?
リュウグウのような小さな小惑星は、過去に近くで観測した例がほとんど無いため、まだ何が「普通」なのかすら分からない状況。まさに「行くまで分からない」のが難しさであり面白さでもあるのだが、米国の小惑星探査機「OSIRIS-REx」が到着したベンヌも同じように岩だらけに見えることから、もしかするとイトカワのように平地がある方がむしろ例外的なのかもしれない。
はやぶさシリーズでは、どんな地表でもサンプル採取ができるよう、弾丸を発射する方式を採用しており、この方式がリュウグウのような場所でも有効であることが証明できた。しかし着陸精度に関しては、現行の探査機の能力をフル活用してなんとか達成したような状況であり、今後のはやぶさ3では、より安全かつ確実に、ピンポイントのサンプル採取を可能にするような対策が取られることになるだろう。
例えば、地上のロボットではすでに一般的な、カラー画像と距離画像を同時に取得できるRGB-Dカメラや、カメラで撮影した映像から環境の3次元情報とカメラの位置姿勢を同時に推定するVisual SLAMなどの活用が候補として考えられる。
はやぶさ2は、地表近くで、LRF(レーザーレンジファインダー)により高度を見ているが、計測しているのはわずか4点(4方向)のみ。しかし、RGB-Dカメラを使えば、地表の凹凸状況を画素レベルの細かさで調べられるので、安全性を高められる。またVisual SLAMなども併用すれば、ターゲットマーカー無しでも、高精度な誘導を実現できるかもしれない。
なお、はやぶさ2では既に、Visual SLAMの試験的な活用も行われていた。まだ自律機能として組み込むレベルではないものの、特徴があまりない地形の場所でも、自己位置を正確に計測できる可能性があるという。
さて、1回目のタッチダウンが終わったばかりだが、次は2019年4月4〜6日に、インパクタの運用を行うことが決まっている。この運用では、サンプラーの弾丸よりもはるかに強力な約2kgの衝突体(金属ライナー)を小惑星表面に撃ち込む。予定通りクレーターを作ることができるかどうか、はやぶさ2に引き続き注目していこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載『次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う』バックナンバー
- 小惑星に人工クレーターを作れ! 〜インパクタの役割と仕組み【前編】〜
小惑星探査機「はやぶさ2」には、さまざまな装置が搭載されている。今回は、隕石の代わりに銅製の「衝突体」を小惑星の表面に衝突させることで、人工のクレーターを作り出す新開発の装置「インパクタ」についてだ。 - 爆発までの40分間で小惑星の裏側に退避せよ! 〜インパクタの役割と仕組み【後編】〜
はやぶさ2のターゲットとなる小惑星「1999JU3」の表面に、人工クレーターを作り出す装置「インパクタ」。それが実際にどのように使われるのか、今回は、小惑星近傍での“運用”に焦点を当ててみたい。 - 「はやぶさ2」は重大トラブルを回避する安心設計 〜化学推進系の信頼性対策【前編】〜
姿勢制御に使われるリアクションホイールの故障を挽回する活躍を見せた一方で、燃料漏れを起こし「通信途絶」という大ピンチを招いた「はやぶさ」初号機の化学推進系。「はやぶさ2」ではどのような改善が図られているのだろうか。 - 「はやぶさ」「あかつき」の苦難を糧に 〜化学推進系の信頼性対策【後編】〜
「はやぶさ2」の化学推進系は、どのように改善が図られているのか。大きなトラブルに見舞われた「はやぶさ」初号機の化学推進系について取り上げた【前編】に続き、今回の【後編】では、はやぶさ2で施された対策について具体的に見ていくことにしよう。 - はやぶさ2から小惑星に降り立つローバー、「ミネルバ2」の仕組み(前編)
2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された、ローバー(探査車)が「ミネルバ2」だ。小惑星に降り立つ重要なミッションを持ったミネルバ2の全貌に迫る。 - 車輪なしでどうやって移動する?ローバー「ミネルバ2」の仕組み(後編)
小惑星リュウグウを目指す「はやぶさ2」に搭載された、ローバー(探査車)が「ミネルバ2」だ。小惑星の表面に降り立ち、調査する使命を持ったミネルバ2の全貌に迫る。