「はやぶさ2」は舞い降りた、3億km彼方の星に、わずか1mの誤差で:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(13)(3/4 ページ)
2010年6月の「はやぶさ」の帰還に続き、日本中を興奮の渦に巻き込んだ「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン。成功の裏には、次々と起こる問題に的確に対処したプロジェクトチームの対応があった。打ち上げ前からはやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。
はやぶさ2で初めて実施した本格的な訓練
今回の成功の大きな要因は、タッチダウン後の記者会見で佐伯氏が語った「しつこさ」にあるだろう。
佐伯氏はこの会見で、「到着前には、仮想リュウグウを使って訓練をしつこくやった。到着後は、L08エリアに目を付けてしつこく観測し、岩の高さまで調べてここに降下できることをしつこく議論した。この4カ月間、本当に“しつこい”くらいの準備を行ってきて、それが成功に結びついた」と、これまでの取り組みを総括した。
到着前に実施してきた運用訓練は、「LSS」(Landing Site Selection:着陸点選定)訓練と「RIO」(Real-time Integrated Operation:実時間統合運用)訓練。リュウグウの表面がどうなっているかは、着いてみないと分からない。どんな状況でも、何が起きても対応できるよう、運用の練度を高めるのがこれらの訓練の狙いだ。
RIO訓練では、1年半の間に、合計50回近い訓練を行った。その中には、24時間体制で行う本番さながらの大規模なものも含まれていて、より本番の環境に近づけるため、JAXAは「はやぶさ2ハードウェアシミュレータ」まで開発した。これは、電波の遅延なども再現されている、かなり本格的なものだ。
こうした厳しい訓練の成果が現れたのは、タッチダウン前日、いよいよ降下を開始するというときだった。7時15分ごろ、探査機の降下準備プログラムを動かしたところ、探査機の位置情報が想定と大きく異なっていることが判明。当初の計画では、8時13分から降下を行う予定だったのだが、間に合わなくなってしまった。
しかし、このタイミングで何か起きても、5時間あればやり直せることは、訓練の経験から分かっていた。そこで、ターゲット時間を5時間遅らせるという判断を速やかに行い、状況を確認。探査機の位置は正常であることが分かり、5時間後の13時13分に、降下を開始することができた。タッチダウンの時刻は変えられないため、予定の2倍以上の速度で降下する必要があったが、これも訓練ですでに試していた。
そして完全自律になる低高度での運用シーケンスは、はやぶさ2の能力でどうすれば安全、確実に成功できるか、1回目のタッチダウンを4カ月遅らせてまで、練り上げてきたものだ。確かに難易度は極めて高かったものの、今回の成功は、決して「奇跡」ではない。奇跡が不要になるほど、周到に準備してきた結果なのだ。
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