「はやぶさ2」は舞い降りた、3億km彼方の星に、わずか1mの誤差で:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(13)(2/4 ページ)
2010年6月の「はやぶさ」の帰還に続き、日本中を興奮の渦に巻き込んだ「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン。成功の裏には、次々と起こる問題に的確に対処したプロジェクトチームの対応があった。打ち上げ前からはやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。
より広いL08-B1ではなく、L08-E1に決めたワケ
はやぶさ2には、初号機になかったミッション機器として、「インパクタ(衝突装置)」が搭載されている※2、3)。インパクタは、小惑星表面に人工クレーターを作り出すための装置なのだが、露出した小惑星の地下物質を採取するためには、クレーター付近に精度良く降下する必要がある。本来このために用意されていたのがピンポイントタッチダウンだ。
※)関連記事:小惑星に人工クレーターを作れ! 〜インパクタの役割と仕組み【前編】〜
※)関連記事:爆発までの40分間で小惑星の裏側に退避せよ! 〜インパクタの役割と仕組み【後編】〜
ピンポイントタッチダウンでは、ターゲットマーカーを事前に小惑星表面に落としておき、それを目印にして降下を行う。探査機のフラッシュを光らせると、それを反射してターゲットマーカーも光るので、カメラの画像処理で容易に識別できる。ターゲットマーカーの投下座標は正確に分かっているので、いわば「灯台」として使えるというわけだ。
通常のタッチダウンでもターゲットマーカーは投下するが、従来方式は投下して落下するターゲットマーカーを追尾するため、着陸精度はターゲットマーカーの投下精度で決まっていた。しかし、ピンポイントタッチダウンは事前に投下しておいて、それに対してオフセットすることも可能なので、着陸精度は投下精度に依存しない。
ただ、ピンポイントタッチダウンでも精度はまだ足りなかった。そのため、小惑星モデルをより高精度化して、重力の影響をさらに正確に評価したり、自律制御のパラメータを最適化し、探査機の位置制御や姿勢制御をより細かく行えるようにしたりなど、さまざまな対策を施した。また今回の地形にあわせ、着陸時の姿勢を傾けることで、安全性も高めた。
こうした努力を積み上げた結果、着陸精度の見積もりは±2.7mとなり、ようやく実現のめどが立った。そしてタッチダウン当日、はやぶさ2が実際に着陸したのは、L08-E1の中心からわずか1m程度しか離れていない場所。まさに「ピンポイント」と呼ぶにふさわしい、見事な誘導制御だった。
しかしオフセットが可能とはいえ、ピンポイントタッチダウンの精度は、ターゲットマーカーから離れるほど低下してしまう。当初計画していた「L08-B1」は幅12mほどあり、L08-E1よりも広かったが、ターゲットマーカーから15mほど離れていたため、精度が成立しなかった。投下地点のすぐそばにL08-E1が見つかったのは幸運だったといえる。
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