製鉄のCO2排出を大幅削減、水素活用とCO2回収の実用化に着手:研究開発の最前線
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2019年3月13日、製鉄プロセスで発生するCO2の排出量を削減する研究開発プロジェクト「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(COURSE50)」の実施状況を説明した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2019年3月13日、東京都内で記者会見を開催し、製鉄で発生するCO2の排出量を削減する研究開発プロジェクト「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(COURSE50)」の実施状況を説明した。
同プロジェクトでは製鉄所から排出されるCO2の約30%削減を目的としたもの。製鉄プロセス由来のCO2排出量は日本全体の13%を占めるとされ、2016年度には約1.4億トンのCO2が排出された。NEDOは2008年、COURSE50を神戸製鋼所、JFEスチール、新日本製鐵、新日鉄エンジニアリング、日新製鋼、住友金属工業の6社(現在は神戸製鋼所、JFEスチール、新日鐵住金、新日鉄住金エンジニアリング、日新製鋼の5社)に委託し、製鉄プロセスにおけるCO2排出を水素活用により削減する技術開発を進めてきた。
製鉄は酸化鉄が主成分である鉄鉱石を還元し炭素を多く含む銑鉄(せんてつ)を作る製銑(せいせん)、銑鉄から炭素を取り除く製鋼といったプロセスから成る。同プロジェクトでは、製銑で用いるコークス(石炭から作られた炭素燃料)の使用量削減により10%、高炉から排出される「高炉ガス」から未利用排熱を用いCO2を分離、回収することで20%のCO2排出量削減に取り組む。
COURSE50プロジェクトは2008〜2017年度に行った“フェーズI”、2018〜2025年度で実施する“フェーズII”の2段階で研究が進められている。フェーズIでは水素による鉄鉱石還元と高炉ガスのCO2分離、回収について要素技術の開発を行った。また、実高炉から実高炉から数百分の1の規模である容積12m3の試験高炉を建設し、CO2低減操業が可能であることも実証している。
フェーズIIでは水素活用をさらに追求した試験高炉操業を行いつつ、フェーズIで開発した高炉の3次元数学モデルで得られた解析結果を用いて実高炉への部分検証試験に着手する。また、フェーズIで開発したCO2分離、回収技術については分離回収コストをCO21トンあたり2000円とすることを目指し、化学吸収液や熱交換システムの最適化を実施する。
同プロジェクトでは要素技術の早期転用を行いつつ、2030年頃までに実機高炉1号機の実用化を狙う。また、高炉設備の更新時期を踏まえ2050年頃までの技術普及を目指している。
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