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鉄は苦難の旅を経て、鉄鋼へと生まれ変わる――「鉄子の旅」ママさん設計者とやさしく学ぶ「機械材料の基本と試作」(2)(1/5 ページ)

ママさん設計者と一緒に、設計実務でよく用いられる機械材料の基本と、試作の際に押さえておきたい選定ポイントと注意点を学んでいきましょう。今回は、鉄と炭素の量との関係や、材料記号でよくある「SUS」「SS」「S-C」の意味など、「鉄」に関するいろいろについて解説します。号泣必至の感動作(?)『MONOist 愛の劇場「鉄子の旅」』も、併せてお届けいたします。

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 皆さん、こんにちは! Material工房・テクノフレキスの藤崎です。前回は「試作とは何か? その種類と目的は何か?」からお話を始めつつ、この世に存在する機械材料の特性を大まかにつかみ、試作の目的に見合った材料選定の根拠を明確にするセンスを身に付けましょうという内容でしたね。そして材料の特性とは、分かりやすく人間に例えれば「性格」や「体質」みたいなもので、金属も非金属も、素のままではなく用途に応じて人間の手が加えられ、特性の異なる材料バリエーションに至っているというお話をしました。

 金属も非金属もその出どころは、ズバリ地球ですよね。中でもダントツの埋蔵量を誇るのが鉄です。地球の成分のうち3割くらい(重量で比較した場合)が鉄だといわれています。埋蔵量が多いことに加えて原料からの取り出しがしやすいことと、混ぜる成分とその比率によって性質に変化を加えられるため、鉄はあらゆる産業で重宝がられているのです。

 そこで今回は、この偉大なる金属「鉄」の基本についてやさしく学びたいと思います。

鉄の豆知識

 鉄の原料としてよく知られているのは鉄鉱石ですが、これが鉄鋼材料になるまでをざっくり描くとこんな流れです(図1)。

製銑とは

 鉄鉱石は、鉄と酸素が結束して最も性質が安定した状態の物体、つまり鉄の酸化物です。これを蒸し焼きにした石炭(コークス)と一緒に「高炉」に放り込んで、高圧の熱風を送りコークスを燃やします。この高熱で鉄鉱石は溶け出し還元反応によって酸素とお別れさせられます。不純物も取り出されます。そして炭素や少しの不純物が混じった状態で炉の底にたまっていくのが銑鉄(せんてつ)です。銑鉄は炭素量が多く非常に硬くてもろい性質を持っていますが、そのぶん溶けやすいので鋳物の材料に適しています(なので、この段階で鋳物の原料と鋼の原料とに分けられます)。

製鋼とは

 銑鉄は溶融した状態で「転炉」という設備に移して、今度は酸素を吹き込むことで炭素量を適正値に整えます。ケイ素、マンガンなどの不純物を取り除いたものが鋼で、ここまできてようやく一般的に「鉄」と呼ばれる物質となります。

 溶けた状態の鋼を連続鋳造設備に流し込み、鋳型から引き出したら冷やして、厚い板状に固めます。これが「スラブ」や「ブルーム」などと呼ばれる半製品です。ちょうどようかんのようなものだとイメージしてください。このスラブやブルームを圧延機で延ばして、板、パイプ、線材などさまざまな鉄鋼製品が出来ていくのです。

炭素量と鉄

 さきほどからちらちら登場する「炭素量」という言葉なのですが、これが鉄の性質を決定付ける要素といえます。炭素量が変わっても「剛性=力が加わった時の変形しにくさ」の違いはほとんどなく、強度と硬さが炭素の量に比例して高くなり、これは熱処理(焼入れ・焼戻し)によって向上するのです。

 純粋な鉄を「純鉄」と呼びますが、これは炭素量0.02%以下とされています。鉄に限らず純金属は軟らかすぎて実用的ではないし、逆に炭素量が多ければ多いほど良いわけではなく、炭素量が6.7%を超えた場合には脆すぎてやっぱり実用的ではなくなります。ですので、機械材料として用いられるのは炭素量0.02〜0.3%の「軟鋼」、0.3〜2.1%の「硬鋼」、2.1〜6.7%の「鋳鉄」と、大きく3つに分けられているわけです(ここでは軟鋼と鋼鋼に絞ってまとめますね)。


図2

合金鋼とは

 「軟鋼」「硬鋼」を炭素鋼としてくくり、ここにニッケル(Ni)やクロム(Cr)、モリブデン(Mo)など他の元素を加えたものが「合金鋼」です(図3)。


図3

 合金鋼は、熱処理によって本領を発揮できるように作られています。炭素鋼と比較して強度や耐食性、耐摩耗性が高く、その分値段もお高くなる材料です。なお、前回も触れましたがステンレスは合金鋼に分類されます。ポピュラーなのが「18Cr-8Ni」の「SUS304」です。これは俗に「18-8ステン」と呼ばれて、たいていのご家庭にある鍋や食器でおなじみの高級ステンレスです。この他によく使われるのが18Crと13Crで、この2つは磁性があるので磁石にくっつくことも特徴です。

JISの材料記号

 SUSとかSSなど、右側に吹き出しでまとめた記号がJISで定められた「材料記号」です(上、図3)。

 全部頭に「S」が付いていますが、これは「Steel」の頭文字です。このアルファベットの後に続く数字が個々の性質を表していて、例えば「SS」は、「Steel Structure」の略ですし、「S-C」に分類されるS30Cという材料は、「0.3%前後の炭素を含んだ鉄」を意味します。末尾の「C」は「Carbon(炭素)が入っています」のCです。

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