“日本語で報告書を読むAI”が日本の製造業の競争力を守る:AI自然言語処理で暗黙知に切り込む(3)(2/2 ページ)
デジタル技術による変革が進む中、製造業はどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けながら、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかを取り上げる。第3回はなぜ製造業において知見の有効活用が行われてこなかったのかについて解説する。
自然言語活用の難しさ
では、なぜそれらの知見は活用されないのだろうか。答えはシンプルで、それらが大量の自然文データで構成されているからである。大量に積み重なった自然文のファイルを、人が全て目を通して意味を理解するには、膨大な人手と手間がかかる。さらに、情報は依存関係を持っており、関連している文書を横串で見ていくとなると、さらに難易度は高くなり、現実的なものとはいえなくなってくる。結果として、個人の経験の範囲の情報と、それに関係する範囲の断片的な情報がいわゆる暗黙知として個人の頭の中に蓄積される形となるのだ。
多くの製造業では、データ活用において、ERP(Enterprise Resources Planning)システムやCRM(Customer Relationship Management)システム、SCM(Supply Chain Management)システム、その他基幹システムなどの活用を行っているが、どれもリレーショナルデータベースとして構造化された数値データを扱っているだけである。自然言語で構成された情報が活用できない課題の1つとしてあるのが、システムからのアクセシビリティーの悪さだといえる。
自然言語AIの活用
筆者は、自然言語処理AIの活用がこの課題解決の1つと考えている。自然言語処理AIを活用することで、大量に蓄積された文書に適切にリーチし、関連情報を含めて可視化できるようになる。
前述した通り、人が大量に積み重なった報告書ファイルを1つ1つ開き、内容を把握し、関連する文書を識別し、網羅的な観点のもと作業を行うことは不可能である。人間の認知能力には限界があるためだ。AIに大量の自然文の認知を行わせ、可視化したものを人が活用する仕組みを作れば、大量の知見を生かせるようになる。また大量の報告書そのものがAIにとっては最良の学習データとなり、日本企業の緻密な報告書の情報を学習したAIは、まさに世界に対する競争力の源泉となり得るかもしれないのだ。
筆者の経験からすると、日本の製造業は非常に詳細な情報まで報告書に記載しているケースが多い。第1回でも述べているが、日本の製造業の確固たる強みは突出した品質だと筆者は考えている。
誰もが日本企業の持つ報告書を最大限活用できれば、そのまま日本の競争力になるだろう。日本語の情報をそのまま活用できるようにすることが、日本らしさを生かした世界に対する差別化要素となるのである。
第4回では、自然言処理AIの具体的な活用と、設計開発の高度化イメージについて説明したい。
筆者紹介
山本直人(やまもと なおと)
KPMGコンサルティング Advanced Innovative Technology ディレクター
大手コンサルティングファームにおいて、中央省庁および大手製造、小売り、流通業などで大規模基幹システム開発、ECプラットフォーム開発などでアーキテクトを務める。オープンソースソフトウェアの啓蒙普及のための分散処理技術のコンソーシアムにも参加し、社外セミナーでの登壇、記事の執筆を行っている。
KPMGコンサルティングにおいて、先端技術を活用してビジネス変革を推進するAdvanced Innovative Technologyチームに所属し、提案活動やエンゲージメントのリード、最新テクノロジーを用いた世の中にないサービスの研究を進めている。
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