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クラウドやBIなどの成熟が追い風、進化しながら変容するERP市場とインフォアの戦略製造ITニュース

「ERPという単語を単体で切り取って考えたり、ERPをクラウドにただ載せ替えただけのことを『クラウド』と表現したりするのは好きじゃない」と断言するのは、2018年11月にインフォアジャパンの代表取締役社長に就任した飯尾光國氏だ。

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 「ERPという単語を単体で切り取って考えたり、ERPをクラウドにただ載せ替えただけのことを『クラウド』と表現したりするのは好きじゃない」と断言するのは、2018年11月にインフォアジャパンの代表取締役社長に就任した飯尾光國氏だ。


インフォアジャパンの代表取締役社長、飯尾光國氏

 クラウドの登場で事業展開に合わせた環境の構築や運用が容易となり、ビッグデータやBI(ビジネスインテリジェンス)、機械学習の活用も一昔前と比べれば遙かに現実的となった昨今、ERPは"巨大なExcelシート"から事業戦略や経営判断をリアルタイムに支援するソリューションという、本来あるべき姿を取り戻しつつある。実際、大手ベンダーの大半は組織全体の業務の最適化や効率化を実現する各種ソリューションを用意、シームレスに連携・拡張可能なクラウドプラットフォーム上に乗せる方向で展開している。

 中堅・中小企業をターゲットとした業界特化型ERPソリューションで実績を重ねるインフォアも、例外ではない。2015年には注文情報をサプライヤーから物流業者までと共有しながら企業の受注管理システムと直接統合して管理するグローバルコマースプラットフォームの最大手GT Nexusを、2017年にはクラウドベースのBIおよびデータ可視化プラットフォームを提供するBirstを買収。加えて、2017年には人工知能「Coleman AI」を発表。ERPとAPI連携しながらデータを機械学習し、在庫管理や輸送ルート、メンテナンスに関するアドバイスを提供する機能のほか、アルゴリズムやトレーニング用モデルを選んでデータを食べさせながらアプリにAIイベントを流す機能、Amazon Alexaを採用した音声UX機能などを実装。要素を着実にそろえながら、ERPベンダーからSaaSカンパニーへと舵を切った。

 これに合わせて、ソーシャルコラボレーションを支援する「Infor Ming.le」やミドルウェアの「Infor ION」、BIやAIの基盤となる「Infor Data Lake」など複数のテクノロジーソリューションを集約する「Infor OS」を、プラットフォーム層に定義。インダストリー層(業種別ERPなど)、クラウド層(Infor CloudSuite)、ネットワーク層(GT Nexus)、アナリティクス層(Birst)、AI層(Coleman)の5つをシームレスにつなぐ6つ目の層としてインフォアの新戦略を支える。

インフォアの6層戦略

GT Nexusは2019年5月以降、Colemanは検討中

 特に期待されるのは、GT NexusとColemanだ。

 GT Nexusは、自社工場や委託工場から陸空海路のロジスティックパートナーまでを1つのネットワークとして可視化するクラウドベースのグローバルコマースプラットフォーム。注文から在庫確認、製造、配送品の到着までを一気通貫で見通せることで、需要に応じた製品の設計や計画、製造、配送、納品を最適化できる。自社の枠を超えた効率化が図れるということで、2017年の発表時点から問い合わせも多いと飯尾氏は明かす。

 成功のかぎは、いかに流通業者にGT Nexus網へ参加してもらうかだろう。その点については、流通業者にもメリットがあることを説明し、積極的に巻き込んでいきたいと飯尾氏は言う。国内でのローンチは2019年5月の会計年度の開始時期に照準を合わせているとのことで、やや先の話になる。

 Colemanについては、2017年のユーザーカンファレンス「Inforum 2017」で音声によるデジタルアシスタント機能や、Birstや機械学習との組み合わせの可能性が語られ、「Inforum 2018」ではHCM(人事管理)ソリューションでの採用を発表。また、データ解析および配信の自動化を行う「Coleman AI PaaS」を、米国については2019年春を目安にリリース予定と公表した。埋もれがちなインテリジェンスをAIで掘り起こすことができれば、迅速な意思決定や市場ニーズへのスピーディな対応が実現する。

 もっとも、国内展開については「もう少し待ってほしい」と飯尾氏。その背景には、飯尾氏が打ち出した新たなセールス方針が挙げられる。これまでインフォアはコマーシャル中心のビジネスを進めてきたが、今後はエンタープライズ領域でのダイレクトセールスも強化すると同時に、GT NexusやBirstといった戦略的製品については専任のアカウントマネジャーを配置することを決定した。例えばERPが得意な営業と連携しながら、6層のソリューションを横断的に検討、採用できるような道筋を顧客に示していく方針という。

 「Colemanについてもアカウントマネジャーを置くべきか、まだ決めあぐねいている」と飯尾氏は述べる。他層と深くかかわり、インフォア製品群を採用する大きな決め手にもなりうるソリューションだけに、慎重に進めたいという思いもあると推測される。

 インフォアの2018年度のSaaS売上増加率は、グローバルで36%。国内はそれ以上の伸びを見せたという。6層のソリューションは、ERP市場の進化をくんだ魅力的なラインアップ。SaaSカンパニーとしての新たな船出と考えた場合、まずまずのスタートといえる。あとは、グローバル含めて発表からローンチまでのタイムラグという泣き所をどうカバーしていくか。今後の同社の展開に注目したい。

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