ソフト開発は「ツールとインフラが9割」、トヨタの先行開発会社が重視すること:自動運転技術(3/3 ページ)
トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の共同出資会社であるToyota Research Institute Advanced Development(TRI-AD)は2019年1月30日、東京都内で事業説明会を開いた。
ソフトウェアエンジニアが生き生きと活躍できる環境を
そのための戦略として、まずMichalakis氏は教育を挙げた。ソフトウェアについて理解し、学習してもらうことが重要だという。また、開発ツールを見直し、アジャイル開発ができるようにしていくことや、コア以外の分野ではIT企業と協業すること、オープンソース活用を推進して開発者コミュニティーを育てていくことに取り組むと語った。
教育に関しては、“道場”を設置するという。専門家がいるスペースをオフィスに設けて、シリコンバレーのマインドセットや、ソフトウェア開発に必要なスキルを身に付けてもらう。「クリーンなコードの書き方だけでなく、実践的な体験から現場のスキルを学んでほしい。勝ち負けや決めつけ、失敗を攻めることや批判のない環境にする。単なる研修プログラムではなく、学校に通うつもりで学ぶ環境にする」(Michalakis氏)。
また、Michalakis氏はソフトウェアの安全性や品質を損なわずに、従来よりも多い頻度で開発プロジェクトを回したいという方針を述べた。「ソフトウェアの要件定義から製品リリースまでのプロセスが、従来のように数年に1度の頻度では、開発者たちが待つ時間が長くなってしまう。数年かけるのであれば、オーケストラのように調和のとれた開発を行うことは可能だ。だが、開発者の夢は1日に10回、製品をリリースすることだ。これはクレイジーな夢ではなく、実現可能な頻度だ」(同氏)。
これを実現し、複数のチームが俊敏かつ同時進行でさまざまなプロジェクトを進めるには、適切なツールが不可欠だという。「そうでないと、膨大なクルマの交通量になるアジアの市街地を、自転車で通り抜けるようなことになる」(Michalakis氏)。
こうした理想の在り方に向けて、Michalakis氏は幾つかのソフトウェアプラットフォームのブレークスルーを挙げた。「OSに関しては、フレキシブルな安全性を確保する上で重要なコードをマイクロカーネルとして再設計する。また、安全なコード開発をクラウド上で行えるようにし、コードを書くことを毎日楽しんでもらいたい。品質保証のためのシミュレーションは自動化し、テスト時間を短縮する。クルマのデータをソフトウェア開発にすぐ取り込むためのパイプラインも必要だ。これらを取り込んだ開発ツールを使いたい。ソフトウェアエンジニアがツール選びに苦労することなく、ロックスターのように活躍できるようにする」(同氏)。
TRI-ADでは、親会社であるトヨタ自動車、デンソー、アイシン精機が共同で開発投資を実施する予定だ。総投資額は3000億円を見込んでいる。開発投資のうち、ソフトウェアを開発するための教育やツールといった環境には少なくない額を振り向けると考えられる。
自動車メーカーとしてトヨタ自動車と競合するVolkswagen(VW)も、カーシェアリングなどさまざまなモビリティサービスの土台として独自のOS「vw.OS」を開発している。vw.OSに対応した車両は2020年から発売する。
VWブランドでは、2025年までにクルマのデジタル化に35億ユーロ(約4500億円)を投じる計画だ。ハードウェアではなく、クラウドやバックエンドからソフトウェアでクルマが持つ機能や能力を増強し、ユーザーにシームレスな進化や継続的なアップデート、アップグレードを提供する狙いだ。VWは外部のパートナー企業と協力し、コネクテッドカー向けのサービスを充実させるためのクラウドソリューションも開発する。
自動車業界のソフトウェアによる競争が、より現実的なものとして活発になっていきそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 想定外のもらい事故も開発に反映、トヨタの“高度”運転支援システムの最新状況
技術であの“もらい事故”は避けられたのか――。トヨタ自動車は2019年1月7日、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)に関連した記者会見において、高度安全運転支援システム「ガーディアン」の開発の取り組みを紹介した。 - 「トヨタと今まで以上に距離縮める」、デンソーら4社の新会社が担う役割とは
デンソーは2018年10月31日、東京都内で開いた決算説明会において、アイシン精機、アドヴィックス、ジェイテクトと立ち上げる新会社の狙いについて言及した。 - デンソーアイシンらの新会社、社名は「J-QuAD DYNAMICS」「BluE Nexus」
デンソー、アイシン精機、アドヴィックス、ジェイテクトは2018年12月26日、共同出資で立ち上げる新会社の概要を発表した。 - トヨタはモビリティサービスでどう稼ぐか、何を競争力にするか
人々の移動を助ける会社「モビリティカンパニー」を目指すトヨタ自動車。「モビリティサービス・プラットフォーム」の整備や、車載通信機の本格的な普及など、モビリティサービスの展開に向けた施策の狙いを聞いた。 - トヨタデンソーアイシンが都内で自動運転開発を加速「従来と異なる発想で」
トヨタ自動車は、自動運転技術の先行開発分野での技術開発を促進するため、2018年3月下旬までに新会社「TRI-AD」を東京に設立する。デンソー、アイシングループもTRI-ADに出資/投資し、人員の派遣も行う。設立時の従業員数は3社合わせて300人で、今後は新規採用を含めて1000人規模の体制を作る。 - なぜ自動車業界がアジャイル開発? 異業種のライバルと対等に渡り合う手段に
「第3回オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア」のセッションから、アジャイル開発の導入に関する講演を抜粋して紹介する。 - VWのコネクテッドカーの肝は「vw.OS」、カーシェアなどサービスの土台に
Volkswagen(VW)は2018年8月23日(現地時間)、2019年第2四半期から電気自動車(EV)のカーシェアリング「We Share」を開始すると発表した。クルマを所有しない人を主なターゲットとし、EVやカーシェアリングの利便性を知ってもらうことが狙いとなる。