キーワードは「拡張」、“第3の腕”や“新たな歩行感覚”を作る未来型ロボット研究施設:ロボット開発ニュース(2/2 ページ)
パナソニックは2019年1月25日、生活を豊かにする新たなロボット開発を促進するオープンイノベーション施設「Robotics Hub」を設立し、「自己拡張(Augmentation)」をキーワードに、企業間連携や産学連携などを進めることを発表した。
人の能力と感覚を“拡張”するロボット
パナソニックが、ロボティクスハブによるロボット開発の方向性として掲げているのが「AutoとAug」である。「Auto」は「Automation(オートメーション、自動化)」であり、従来のロボットのように人の作業を代替することで社会課題を解決する方向性である。もう1つの「Aug」は「Augmentation(オーグメンテーション、自己拡張)」を意味する。
さらに「オーグメンテーション」は2つの方向性を内包する。1つは人の身体的機能を拡張する「Enlarge」という方向性である。そしてもう1つが人の感覚や感性などを拡張する「Enrich」という方向性である。
小川氏は「人生100年時代を迎える中で、人の関与を排除するオートメーションだけでは人間にとって豊かな生活を実現できない。人の関与により、人が能力を拡張することで実現する価値が今後重要になる」と考えを述べている。
これらの開発を実現するために、このオーグメンテーションの方向性については、「Aug-Lab」という学際的バーチャルラボを設置。研究者やアーティストなども呼び込み、感覚や感情、行動のメカニズムを解き明かし、提供価値と開発プロセスなどを構築していく。
“第3の腕”と感覚の拡張
オーグメンテーションにおいて、「Enlarge」の例として、既にロボティクスハブで研究が進められている取り組みの1つが、早稲田大学 理工学術院 教授でグローバルロボットアカデミア研究所所長の岩田浩康氏と取り組む“第3の腕”を実現する取り組みである。
これはロボット技術を活用した身体拡張を目指したものだ。ロボットによる腕を人間が使用し、意のままに操るようにすることで、従来の人の身体ではできなかったことを可能にすることを目指す。実際には人間の知覚面で「ないものを認識するので認知的な負荷がかかる。この認知的負担が低い操作感を実現することや、身体所有感を実現することなどが課題となる」と岩田氏は述べている。
ボードをネジ止めする際に、ボードを押さえるために“第3の腕”を使うというデモを披露した。“第3の腕”を動かす位置については視線で指示し、行動のトリガーは音声指示で行う形となっている。
「Enrich」の方向性で取り組んでいるのが、予防医学研究者で医学博士の石川善樹氏と取り組む「感覚拡張」である。デモとして用意したのは、視覚と聴覚、触覚を活用した歩行感覚を拡張するもの。プロジェクターで映した映像背景とそれに合った音、その音や視覚に合わせた触覚を再現するハンドデバイスを組み合わせることで、それを体験した人に通常の歩行とは異なる感覚を生み出す。具体的には雪の風景の映像投影に、雪を踏み歩く音、雪を踏んだときに感じる衝撃を再現したハンドデバイスにより、雪の歩行の疑似体験を作り出すというものである。
石川氏は「現代社会は、利便性は高まったが人々は幸せにはなっていないという調査結果が出ている。都市化が進む中で狭い暮らし環境の中、日常をいかに幸せな時間にできるかがポイントだ。日常の基本動作を『Enrich』にしていくことが大事で、歩行を豊かにすることを考えた」とデモの狙いについて述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 物流業界を救う自律搬送ロボットと群制御、パナソニックの現場改革への取り組み
パナソニックは100周年を記念して行う同社初の全社ユーザーイベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」(2018年10月30日〜11月3日)を開催。その技術セミナーとしてパナソニック コネクティッドソリューションズ社 プロセスオートメーション事業部 ソリューション事業開発センター ロボティクス開発部部長の松川善彦氏が「現場プロセスイノベーションを実現する自動搬送ロボットソリューションの開発」をテーマに、物流におけるロボティクスの取り組み、自動搬送ソリューションの開発状況などを紹介した - ロボット新戦略を追い風に、“姿勢”に最適化したセンサーをパナソニックが開発
パナソニックは、ロボットの姿勢検知用途に絞り込み、センサーを組み合わせてパッケージ化した「モーションセンシングユニット」を開発。ロボット新戦略などにより、需要が増すロボットの開発を簡略化し、開発期間やコストを低減する狙いだ。 - 協働ロボット、ロボットシステムに残された課題と未来
協働ロボットを現場で活用するのにどのような工夫が必要か――。ロボット技術の総合展示会「2017国際ロボット展」では、ロボットメーカーおよびユーザー企業によるパネルディスカッション「ロボットフォーラム2017」が実施され、協働ロボットの意義について語った。 - 機械は人の仕事を奪わない、“人とロボットがともに働く現場”が拡大へ
2016年は人工知能関連技術が大きな注目を集めて「機械が人間の仕事を奪う」という議論が大いに盛り上がりを見せた。こうした一方で2017年には「現場」において、こうした動きと逆行するように見える「人とロボットが協力して働く世界」が始まりを迎える。 - いまさら聞けない産業用ロボット入門〔前編〕
日本は「ロボット大国」とも呼ばれていますが、その根幹を支えているのが「産業用ロボット」です。それは世界の産業用ロボット市場で圧倒的に日本企業がシェアを握っているからです。では、この産業用ロボットについてあなたはどれくらい知っていますか? 今やあらゆるモノの製造に欠かせない産業用ロボットの本質と基礎を解説します。 - 製造現場での普及を2倍に、ロボット新戦略が目指すロボットと共に働く未来
日本政府が主催する「ロボット革命実現会議」は、ロボット活用の技術的および規制面でのロードマップを示した「ロボット新戦略」を発表した。本稿では、この新戦略の中で示されている「モノづくり」分野への取り組みにフォーカスし、その内容を紹介する。