特許出願は技術者にとっての「タグ付け」、CAEで強い特許を取る方法とは:CAE事例(3/3 ページ)
知財戦略は企業が市場を獲得を狙ううえで非常に重要だが、その意義が十分に理解されているとは言い難い。また技術者による特許への向き合い方もさまざまで、数百もの特許を出願する人がいる一方で、ノルマとしての関わりにとどまる人も多いのが現状といえる。
数値限定の形状になると特許としては弱くなる
電線を被覆するための原料である樹脂ペレットについても、CAEにより従来の常識とは離れた新たな気付きを得た。ペレットはホッパーに投入され、スクリュ―によって送られる中で加熱、溶融され、シースまたはシールド施しへと送られる。安定した被覆状態を確保するためには、投入される際のペレットの流動性が重要になる。経験的にペレットの形状と流動性には相関があると認識されていたものの、流動現象が複雑であることから、論理的な検討は行われていなかった。
そこでホッパーの有限要素モデルと回転楕円体形状のペレットの解析により、ペレットの形状と流動性の関係を調べた。ラグビーボール形状から碁石形状へと、赤道径と極径との比を変化させていったところ、球はそれほど流動性がよくないが、赤道径と極径の比が約2(碁石型)および約0.5(ラグビー型)の場合に流動性が向上することが分かった。またペレットの材質や量、ホッパーの角度には依存しないことも分かった。
なお樹脂ペレットのように、すでに多く生産されているものについては形状出願でかつ数値のみの限定になると弱い特許になるという。この特許については最適形状の限定であり数値限定特許になるため、自社製品の保護の役には立つものの、比較的牽制力の面は弱い特許になるという。
数値限定特許はCAEが前提になることもあるが、CAEにこだわるよりも、ひびの業務の中に埋もれている新しい技術があり、そういったものが特許に通じる。常にそのようなマインドを持って仕事に取り組みたい。
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