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「CAEが楽しい」地方の声から始まったCAE懇話会、ベテランの知見を後世へCAE(1/2 ページ)

どのような経緯でCAE懇話会が生まれ、どういった取り組みを行ってきたのか。立ち上げ時から幹事を務め、同会の歴史を知る副理事長でアルゴグラフィックス 営業本部 HPC推進部長の辰岡正樹氏に、最近のCAEの動向や参加者の傾向なども含めて聞いた。

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 「関東以外でもCAEの情報がほしい」という切実な声から始まったNPO法人CAE懇話会。現在、多くの個人会員と61の団体会員を持つまでに成長し、全国6つの地域で講演会や勉強会を開催している。どのようないきさつでCAE懇話会が生まれ、どういった取り組みを行ってきたのか。CAE懇親会の副理事長で、立ち上げ時から幹事を務めるアルゴグラフィックス 営業本部 HPC推進部長の辰岡正樹氏に、最近のCAEの動向や参加者の傾向なども含めて聞いた。


CAE懇話会で初期から幹事を務めるアルゴグラフィックスの辰岡正樹氏

全国6つの地域で自主的に運営

 CAE懇話会はダイキン情報システムの平野徹氏が代表を務める、個人および学生、団体会員からなる非営利法人である。CAE懇話会は2000年に関西で産声を上げた。その後、2002年に中部、2003年に関東、東北(INSデジタルエンジニアリング研究会と共催)、2009年に北陸で支部が誕生した。2016年には広島CAE懇話会がスタートし、現在はこれらの6つの地域で活動が行われている。


CAE懇話会の風景(提供:CAE懇話会)

 主な活動は、CAE懇話会と解析塾からなる。CAE懇話会では会員が注目するテーマを毎回決めて、専門家を呼び講演会形式で行う。多い地域では年間9回ほどのペースで行っている。また解析塾は、より専門的なテーマを取り上げており、実習ベースで5回程度のシリーズになることもある。これらの企画、運営は各地域で独立して行われている。

最近の人気テーマはディープラーニング

 最近は中部で「CAEとEV(電気自動車)技術」、広島で「これからのCAE」、関東では「最適化」、関西で「実験と流体CAE」といったテーマで開催された。今後は「データサイエンス」や「最適化と3Dプリンタ」などのテーマで開催される予定だ。最近の人気テーマはディープラーニングだといい、関西で実施した際には参加者が200人を超えたという。またデータ同化も注目のテーマだという。

 変わったところでは、特許を取り上げている。CAEに携わる人にとっては縁遠いと思われがちだが、「特許は技術者の客観的な評価指標になるため、日ごろから取り組みを特許と結び付ける特許マインドを持ってほしい」と辰岡氏は話す。例えば「数値限定特許」といったシミュレーションが必要な特許もある。「数値計算力学の級などもよいが、特許も技術者の評価になる。転職で有利になり、企業によっては退職後もロイヤルティーが入ってくる可能性がある。企業にとっても存在価値につながるためプラスになる」(辰岡氏)という。

 解析塾は20人程度からの小規模開催で、連成解析や実験、CAE、クリープ解析、DEM(個別要素法、離散要素法)など、専門に特化して実施している。

 またCAE懇話会の活発な活動の中から生まれた書籍も多数出版されている。「現場の視点で書かれており、実践的だ」と好評だという。

関西のユーザー会がなくなった

 CAE懇話会の発端は、「CAEの情報を得る場が欲しい」という関西の技術者からの声だったという。1990年代の終わりごろ、ベンダーによるユーザー会の開催が東京のみになってしまった。20代から30代の若手は東京のイベントに参加しようにも予算を取ることが難しかったという。技術者はCAEソフトの最新の開発状況や、その活用情報を知りたがっていた。またCAEを指導的に進めているメーカーの技術者や大学教員と交流したいという希望を持っていた。

 そこで、前理事長の東レの田中豊喜氏や京都大学の小寺秀俊氏、辰岡氏やそれぞれの企業の技術者、ベンダー、大学の研究者などが話し合い、2002年に任意団体として関西CAE懇話会が発足。実質的な第1回となった会では「詳細を発表する前から次々と参加申し込みが入った。参加人数は読めなかったが、100人集まればすごいことだと思っていた」(辰岡氏)。最終的に131人が参加したという。その後も回を重ねるごとに参加者が急増したことからNPO法人化を検討。2002年5月に、NPO法人CAE懇話会として認証を受けた。関西以外の各地区へ展開するまでは200人を超えることも珍しくなかったという。

 「“自分だけ”“社内だけ”でやっていると限界がある。外と交流することで違う世界が見えてくる」と辰岡氏はCAE懇話会に参加するメリットを話す。「若手の時には育ててもらった」という声も多い。社内で悩んでいたことを相談して解決の糸口を見つけるといったこともよくあるという。

ベンダーとユーザーを対等の立場に

 初代理事長の田中氏が打ち出していたメッセージの1つが、バウンダリレスだという。ベンダーやユーザーの垣根を越えてお互いの役に立つことが、ひいては自社の役に立ち、CAE技術を向上させ、社会の役に立つという考え方だ。そのためにはCAE製品を提供するベンダーと、それを使うユーザーが対等の立場で連携することが大事だと考えていたという。田中氏は東レエンジニアリングの樹脂流動解析「3D TIMON」の生みの親だ。辰岡氏も重工メーカーやベンダーを渡り歩き、立場を超えて協力することの大切さをよく分かっていたといえる。

 一般的にはどうしても買う側が上の立場になってしまうと辰岡氏は話す。例えば「ユーザーは各社比較のベンチマークなどを要求するが、ベンダーにとっては相当な負担になる。そういった一方的な要求はしないようにしようと決めた」(辰岡氏)。ベンダーなどにとってメリットがなければ、社内の理解を得られなくなり、会に参加できなくなってしまう。そのため営業の場を提供するなどして、ベンダーもメリットが得られるようにしているという。

 CAE懇話会は辰岡氏がIBMに在籍していた時に発足しており、その時、辰岡氏はサーバを販売する立場だった。CAE懇話会では直接顧客の顔が見えるため、本当に顧客の役に立つとはどういうことかを考えながら活動できたという。会社に対しては、自社の利益に貢献する、大学とのつながりができるなどのメリットを訴えることで、活動を認めてもらった。そのためCAE懇話会の運営にも会社の業務の一環として携わることができたという。

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