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特許出願は技術者にとっての「タグ付け」、CAEで強い特許を取る方法とはCAE事例(2/3 ページ)

知財戦略は企業が市場を獲得を狙ううえで非常に重要だが、その意義が十分に理解されているとは言い難い。また技術者による特許への向き合い方もさまざまで、数百もの特許を出願する人がいる一方で、ノルマとしての関わりにとどまる人も多いのが現状といえる。

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CAEを活用した特許例を紹介

 ダイキン工業は空調機で世界1位、フッ素化学製品で世界2位のシェアをもつ。劉氏はCAEを活用して出願した空調機やフッ素化学関連製品について紹介した。

 試作による試験を行わず、CAEだけで効果を確認、出願した例が、業務用の空調機の天板構造に関するものだ。飲食店やオフィスで使用される、天井に埋め込まれるタイプの室内機になる。天板の中央にはモーターファンが吊り下げられ、中央から放射状にメインリブが敷設されている。コスト削減のために天板の薄肉化が求められていたが、剛性確保のためにサブリブをどんどん増やしており、「これ以上どこにリブを付けるのかという状態になっていた」(劉氏)という。


図2:特許出願した天井埋め込みカセット型空調機

 この天板についてCAEによる解析を行ったところ、サブリブを付けるほど剛性が低くなること、またファンの共振振動数の面でも好ましくないことが分かったという。材料力学の視点から見れば、曲げ剛性は距離の3乗に比例し、リブをあちこちに付けると平らな面に戻すのと同じになってしまう。「基礎を勉強していれば分かることだが、現場では目の前の仕事に追われて案外気付かなかった」(劉氏)。


図3:天板にサブリブを付けるほどたわみが大きく、振動数が低くなることが分かった。

 この新しい構造は2002年に同社の製品に採用され、放射状のリブのみを配置した構造によって、天板の厚さを従来の限界である0.8ミリメートルから0.7ミリメートルにまで薄くすることに成功した。メインリブのみにすることによって共振回転数を上げることができ静寂性も向上した。また構造の薄肉化と単純化により材料費の削減と成形容易性も向上し、採用年には材料費を従来より12パーセント程度削減できたという。

 この出願は、設計者の思い込みをCAEで打破した例になる。また、そのアイデアの検証を、リアルの実験でなくシミュレーションで行い、その解析結果は特許出願において使用されている。

 なおこの出願については「特許の3要件は満たしている」(劉氏)が、諸事情により日本では成立させることはできなかった。中国、続いて英独仏では特許が成立し、今もグローバルでダイキンの製品に使われているという。

封止部材でCAEにより新たな気付き

 車載リチウムイオン電池の電極固定などに適するフッ素樹脂製の封止部材については、CAEで従来にない形状を見いだすとともに、20万時間後も良好な封止効果を持つことを示したという。

 従来の封止部材は円柱に穴を貫通させただけの形状が一般的だったが、劉氏らはCAEによって、上面および下面の中央をくぼませた形状であれば封止効果が上がることを発見した。図4が、20万時間後の封止部材の反発力と傾斜条件の関係である。これについてもCAEでアイデアを得るとともに、CAEの検証のみで出願、特許として認められた。


図4:封止部材では、外側に向かうほど厚さが増す形状であれば20万時間後も良好な封止効果を維持することが分かった。

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