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特許出願は技術者にとっての「タグ付け」、CAEで強い特許を取る方法とはCAE事例(1/3 ページ)

知財戦略は企業が市場を獲得を狙ううえで非常に重要だが、その意義が十分に理解されているとは言い難い。また技術者による特許への向き合い方もさまざまで、数百もの特許を出願する人がいる一方で、ノルマとしての関わりにとどまる人も多いのが現状といえる。

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CAE解析結果を活用した製品開発と特許出願の事例

 知財戦略は企業が市場を獲得を狙ううえで非常に重要だが、その意義が十分に理解されているとは言い難い。また技術者による特許への向き合い方もさまざまで、数百もの特許を出願する人がいる一方で、ノルマとしての関わりにとどまる人も多いのが現状といえる。


ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンターの劉継紅氏

 数多くの特許出願をしてきたダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンターの劉継紅氏は、技術者が特許出願に取り組むことは、キャリア形成や仕事のやりがいを向上させる上で大きな効果を持つと話す。とくにCAEを活用している場合、シミュレーションは特許出願において重要なツールになるという。

 2018年11月30日に関西CAE懇話会による「技術者のための特許セミナー」が開催された。講演では特許庁による近年のIoTをはじめとする日本の特許強化への海外に対する取り組みや、社内知財担当者や特許事務所、研究者によるシミュレーションに関する特許の取り組みが語られた。

 その中から、ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンターの劉継紅氏による講演「CAE解析結果を活用した製品開発と特許出願の事例紹介」の概要を紹介する。

特許出願は仕事の充実と社会貢献につながる

 劉氏は、「技術者にとって特許出願は、日頃の成果を世に問う最大の手段であり、技術者人生の満足度を向上させることにもつながる」という。給料が上がったからといって満足がどこまでも上がるわけではない。「アイデアを実際の製品に搭載し、多くの人に使ってもらえるのは、開発者にとって非常に充実感を感じること」と劉氏は語る。

 また「特許出願は研究者や技術者による自身への”タグ付け”だと思っている」(劉氏)という。流動性がますます高まる就業環境においては、会社への就職が安定につながるとは限らない。それよりも、自分自身の”タグ”が何なのかを意識し、積極的にタグ付けを行っていくことが安定への近道になる。特許出願は、論文発表と並んで技術者が自身に付けられるタグになるという。

 一方、タグ付けは本人の実績を目に見えるようにしたものであるため、周りからの信頼獲得や自信の強化、ひいては「技術者人生の充実度向上につながる」(劉氏)という。また特許の出願は、「かっこよくいえば人類による技術の発展や集合知の厚みを増すことに貢献すること」であり、社会に新たな付加価値を生み出すことで、経済成長に貢献することでもあると語る。

特許取得は「スター技術者」だけのものではない

 特許を取るというとハードルが高く、一部の技術者だけのものと思われがちだが、決してそんなことはないと劉氏はいう。社会で新しい価値を創出できるのは一部の幸運なスター技術者だけでなく、どんな技術者にでも取り組めるもので、技術課題を日頃から意識して考えていれば、必ず特許出願につながるアイデアは生まれるという。

 「ゼロから何かを生み出すことは難しく、またそれをする必要はない。既存のもの、技術やアイデアの組み合わせや改良によっても、新たな付加価値を生み出すことはできる。そういう意味では凡人の想像力でも可能だ」(劉氏)という。

CAE解析結果のみで特許登録は可能

 従来は実験によって検証された結果をもとに特許出願が行われていた。だが近年は、実験結果ではなくシミュレーションの解析結果のみでの特許登録が可能になっているという。なお当然だが、解析結果については正確性と整合性が極めて重要になる。これが確保されていなければ、例え特許を登録できたとしても、実際には実施できない発明となるため、権利として持つ意味がなくなる。

 初めてシミュレーション結果のみで登録されたとされる例が、高度情報科学技術研究機構(RIST)の立木昌氏らによって2004年に出願され、2010年に成立した特許である。ビスマス系超電導物質からテラヘルツ波を連続的に発振する新原理と装置になる。

 この特許では、実際にテラヘルツ波を測定したデータがなく、シミュレーションによってテラヘルツ波の発振を推定し、それを基に発振素子と周辺装置を考案した。シミュレーションで示される事象を積み上げて特許登録に至った例となる。

数値限定は「強い特許」にはなり得ない

 特許の要件には「新規性」「進歩性」「有用性」がある。新規性とは、発見・発明が客観的に見て新しいことである。進歩性とは、同じ分野の技術者が公知発見・発明に基づいて容易に発明・類推できず、自明でないこと」と定義される。有用性とは、産業分野で利用できることである。

 特許を出願する際に、CAEはアイデアの創出とアイデアの検証ツールの2つの用途で活用できると劉氏はいう。一方、「数値限定特許のための活用については、拒絶されることが多いと思っている」(劉氏)。数値限定特許とは、特定の範囲で機能が発揮されるとして、形状寸法や成分比率などの数値の範囲を指定するタイプの特許である。

 CAEの解析結果から特に性能のよい形状などを新しく見いだしたとしても、そのまま出願すれば現行製品の延長と見なされ、進歩性がないとして拒絶されることが多いという。登録できた場合でも、強い権利取得は難しい。なぜならそのパラメータを変化させること自体は既知であり、またCAEの解析条件を定めてクレームすると容易に回避されるからだ。

 そのため数値限定よりは、CAEを行う中で予期しない事象を見いだしたり、シミュレーションする中で生まれたアイデアをベースにした、新しい構造や形状、方式、機構などを特許として出願するという使い方が最も有効といえる。または新しいアイデアが生まれたときに、その実現可能性をCAEで検証するという使い方が適切である。

 近年CAEは製品開発の期間短縮と完成度の向上になくてはならない重要なツールであることは認められており、試作試験がなくても説得力のあるデータとして認められるようになっている。CAEはあくまできっかけの創出や検証に使うのがよく、数値限定よりも強い特許取得に役立てることができるという。


図1:CAEはアイデア創出や検証のツールになる

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