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百花繚乱のLPWAネットワーク、製造業は使いこなせるのかMONOist 2019年展望(2/2 ページ)

IoTをつなげるのに最適な、低消費電力かつ広域で利用できるLPWAネットワーク。無線局免許が必要なライセンス系、不要なアンライセンス系を含めて多くのサービスがあり、百花繚乱の様相を呈している。このLPWAネットワークを、製造業は使いこなせるのだろうか。

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アンライセンス系は「Sigfox」と「LoRaWAN」が軸に

 アンライセンス系で有力とされているのが「Sigfox」と「LoRaWAN」だ。周波数帯に920MHz帯を用いるSigfox※)は、国内では2017年から京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が事業を展開している。同社が設置するSigfoxの基地局により、2018年11月時点で人口カバー率90%を達成したと発表している。2019年夏には同97%まで拡大する予定だ。

※)関連記事:いまさら聞けないSIGFOXネットワーク入門

Sigfoxの国内における人口カバー率の目標
Sigfoxの国内における人口カバー率の目標。2018年3月発表時点でものだが、現在はこれが前倒しになっている。2019年3月時点で95%になる見込みだ(クリックで拡大) 出典:KCCS

 Sigfoxの最大の特徴は圧倒的な安さで、通信費用は年間100円から。通信範囲も最大数十kmとかなり広い。ただし、通信速度は100bpsと低く、1回当たりの通信データ容量も12バイトに制限されている。IoTで広く求められる状態監視や稼働監視といった用途に向けて割り切った仕様であり、だからこそ実現できている低価格でもある。

 フランスのSigfoxが各国1事業者に委託する形で展開するSigfoxに対して、LoRaアライアンスがオープンに展開しているのがLoRaWAN※)だ。アンライセンス系のLPWAということでSigfoxと競合するものの、1回当たりの通信データ容量が11〜242バイトと幅があること、LoRaWANの通信を行うための基地局に当たるゲートウェイが必要になる点で異なる。

※)関連記事:いまさら聞けないLoRaWAN入門

 もちろん、Sigfoxのように基地局を含めてLoRaWANによるLPWAサービスを提供する企業もある。国内3キャリアはLTEとLoRaWANを組み合わせたIoTネットワークサービスを用意しており、センスウェイのように独自にサービスを展開する企業も出てきている。ただし、これらのサービスを使わずに、自身で基地局を用意しIoTのネットワークを構築する“自営”も可能なので、その自由度の高さこそがLoRaWANの魅力にもなっている。

センスウェイによるLoRaWANサービスのイメージ
センスウェイによるLoRaWANサービスのイメージ。Sigfoxとほぼ変わらない(クリックで拡大) 出典:センスウェイ

 各国1事業者が展開するSigfoxはその展開の広がり方が見えやすく、その進捗を人口カバー率といった表現もできる。一方で、LoRaWANはオープンな仕組みがベースにあり、明確な旗振り役がいないのでその広がりは見えづらい。それでも、ユーザー数ではLoRaWANの方が多いといわれている。今後も、アンライセンス系のLPWAの軸になるのは、SigfoxとLoRaWANだろう。

 同じアンライセンス系のLPWAでは、Wi-Fiアライアンスが主導する「Wi-Fi Halow」や、ソニーが事業化に踏み出した「ELTRES」※)などもある。これらが今後浸透するには、セルラーLPWAやSigfoxやLoRaWANにはない価値を訴求していく必要があるだろう。

※)関連記事:ソニー発のLPWA通信国際標準規格、広域カバー率と安定性で用途拡大に挑む

IoTをLPWAでつなげて何をするのか

 これらのようにIoTをつなげるLPWAの選択肢は多数ある。通信料金も、Sigfoxの年間100円をはじめ、LoRaWANを展開するセンスウェイが月額8円、セルラーLPWAでも月額100円前後のプランがあり、かなり安価に抑えられている。通信モジュールのコストも、Sigfoxは数ドルという基準を示しており、セルラーLPWAもカード型SIMではなくチップ型のeSIMを活用すれば低減できる可能性がある。

 ただし、ここで重要になってくるのが、IoTをLPWAでつなげて何をするのかということだ。農場などで100個以上のセンサーを使って作物を育てるような用途であれば、その作物の収穫量が上がったり、質が高まったりするのであれば、LPWAのコストは十分に回収できるだろう。

 しかし、製造業のIoT活用の代表例である工場の見える化などの場合、わざわざLPWAを使う必要はないかもしれない。もちろん、ただ製品を売ってもうける、いわゆる「モノ売り」の製品についても、月額課金の通信料金がかかるLPWAを使うべきではないだろう。

 やはり、製品とともにサブスクリプション契約による課金が可能なサービス提供も行う「コト売り」に取り組まなければ、LPWAの価値を最大限に引き出すことは難しい。MONOist2019年展望の記事の1つである『製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか』で取り上げているように、製造業がサービス化に踏み出すことによって、初めてIoTとLPWAという手段は価値を発揮する。

 LPWAのアプリケーション市場として想定されているのが、物流/資産管理、スマートメーター、インフラ/環境監視、セキュリティ/スマートビル、エネルギー生産などだ。これらの市場に対して、自社の製品や技術とLPWAの組み合わせからどのようなサービスを生み出せるかを検討していく必要があるだろう。

世界のLPWA市場の分野別の市場規模推移及び予測
世界のLPWA市場の分野別の市場規模推移及び予測(クリックで拡大) 出典:平成29年版情報白書

⇒「MONOist 新年展望」記事はこちら

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