取り残しのない乳がん手術へ、有機合成反応で短時間で簡易に識別可能に:医療技術ニュース
理化学研究所は、乳がんの手術中に摘出した組織で有機合成反応を行い、乳がん細胞の有無だけでなく、がんのさまざまな種類を従来よりも短時間で、簡易に識別できる診断技術を開発した。
理化学研究所は2018年11月28日、乳がんの手術中に摘出した組織で有機合成反応を行い、乳がん細胞の有無だけでなく、がんのさまざまな種類を従来よりも短時間で、簡易に識別できる診断技術を開発したと発表した。同研究所開発研究本部 主任研究員の田中克典氏らの研究グループが、大阪大学、カザン大学と共同で開発した。
乳がん切除手術では、手術中に乳腺組織(断端)での顕微鏡による診断を行い、がんが残っていないかどうか確認するが、現在利用されているヘマトキシン・エオジン手法(HE染色法)では、1回の検査に40分程度を要する。そのため、手術中の患者の負担を減らし、短時間で簡便にできる迅速術中診断技術の開発が求められていた。
研究では、がん細胞でアクロレインが多量に発生していることを突き止め、乳がん手術で摘出した生の組織にアジドプローブとアクロレインを反応させることによって、がん細胞を選択的に蛍光標識できるかを調べた。その結果、手術中に患者から摘出した乳がんの断端をアジドプローブ溶液に5分間浸すだけで、97%の高い確率でがん細胞を判別できた。
アジドプローブを用いると、がん細胞を1細胞レベルで蛍光標識できる。そのため、顕微鏡やHE染色法で得られた画像と同じ画像を、7種類の乳がん(浸潤がん、非浸潤がん、増殖病変、小葉がん、乳頭腫、微小浸潤がん、微小非浸潤がん)をそれぞれアジドプローブ溶液に浸してから5分で得られた。
今後は、乳がん診断検査の臨床研究を行い、多くの乳がん手術現場で本技術が活用されると期待される。さらに、本技術とAI(人工知能)の画像診断技術とを併用すれば、乳がんの切除手術の効率化がいっそう進むと考えられる。
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