サイボーグ実現を目指すベンチャー、ヒトは人体から解放されるのか:ベンチャーニュース
ソリッドワークス・ジャパンは2018年11月9日、東京都内で「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2018」(以下、SWWJ2018)を開催した。基調講演は、義体やブレインマシンインタフェースの実現を「メルティンMMI」で社長を務める粕谷昌宏氏が登壇し、サイボーグ技術の概要や、未来のロボット社会について構想を語った。
ソリッドワークス・ジャパンは2018年11月9日、東京都内で「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2018」(以下、SWWJ2018)を開催した。同イベントでは、まもなくリリースされるSOLIDWORKS 2019の新機能やユーザー事例などの紹介を行っていた。
基調講演は、義体やブレインマシンインタフェースの実現を目指すSOLIDWORKSユーザーのスタートアップ「メルティンMMI」で社長を務める粕谷昌宏氏が登壇。同社が開発を進めるサイボーグ技術の概要や、未来のロボット社会について構想を語った。
人と機械を融合させるサイボーグ技術を開発するメルティンMMI
メルティンMMIは、2013年7月に粕谷氏が博士後期課程在学中に創業したスタートアップ。粕谷氏は同社創業前から、ロボットやサイボーグに関する研究活動を進めており、サイボーグについて「人体と機械が融合した、人類の新たな未来を切りひらく存在だ」と考えを語る。
粕谷氏は「人類はこれまで数多くの道具や技術を開発し、文明の発展を成し遂げてきた。しかし、その発展も人体の限界によって頭打ちが訪れるだろう」との認識を示す。そこで、「人体の制約を超え、さらには置き換えられる義体を開発する。人体の限界を飛び越えることで人間の創造性を拡張したい」と同社の事業ビジョンを説明した。
同社の強みとなる技術は、生体信号の正確かつ高速な解析、そして独自のロボット機構だ。
生体信号は「−70mVを0、30mVを1としたデジタルデータ」(粕谷氏)とするが、従来技術では高い精度で操作者の意図が読み取れず、操作者の意図通りにロボットを動作させることが困難だった。同社は、独自技術により操作者の意図を正確に読み取りつつも、入力から反応までの応答時間を約0.02秒とリアルタイム性も追及していることが特徴となる。また、ロボットに多数取り付けられたセンサーから、操作者に触感などの感覚をフィードバックするハプティクスも取り入れている。
また、同社のロボット機構は人体の筋肉と腱の構造から着想を得て、複数ワイヤーによる駆動方式を採用した。ワイヤーの素材やルーティング、入力プロファイルなどの研究開発を積み重ねることで、他社の複数ワイヤー駆動ロボットと比較しても高い自由度と力強さを両立させた。ここで、ワイヤールーティングをネットワーク構成としたため、アクチュエーターの故障発生時にも他の正常なアクチュエーターに切り替えが可能で、ロバスト性も向上させている。
これらの技術を組み合わせ、同社は人間の創造の源であるとする「手」からサイボーグ開発を開始。2018年3月に、パワフルかつ器用な手を持つアバターロボットとして「MELTANT-α」を発表した。このMELTANT-αでは2kgの物体をハンドで保持でき、4kgの物体もアーム全体で支えることを可能とした。また、アラブ首長国連邦アブダビの展示会場に設置しているMELTANT-αを、日本のサーバ経由で米国ボストンから低遅延で操作したとし、良好な遠隔操作性も備えているという。
同社はMELTANT-αの開発を皮切りに、2020年までに量産実用モデル「MELTANT-Y」の開発完了、そして2021年には本格的な市場投入を予定している。人の立ち入りが困難、または人的作業で多大な労力が発生する災害現場や宇宙環境の他、農業や医療といった市場での適用を目指す。
特に宇宙環境での適用については、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とANAホールディングスが共同で進める宇宙開発・利用創出プログラム「AVATAR X」へ参画し※)、MELTANTによる地球上からの操作による宇宙空間における作業可能性の検証を進めている。
※)関連記事:ANAの瞬間移動サービス「AVATAR」が起動、意識や思いを“遠くに届ける”
粕谷氏は「サイボーグはいままでSFの文脈で語られており、先行研究の対象でもあった。そのような状況で、サイボーグの実用化を目指す企業は我々くらいだろう」と語る。今後も生体インタフェース技術とロボット技術の高度化を進め、将来的には「サイボーグプラットフォームの大規模展開を目指す」とした。
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