日立と三井物産がスマート物流で協創、AIが熟練者も考え付かない配送計画を立案:物流のスマート化
日立製作所が三井物産と取り組んでいるAI(人工知能)を活用した配送業務の最適化に向けた協創について説明。これまでに、トラック台数を最大10%削減するとともに、熟練者と同等もしくはそれ以上の実効性のある配送計画を立案できる見通しが得られているという。
日立製作所は2018年10月9日、東京都内で会見を開き、三井物産と取り組んでいるAI(人工知能)を活用した配送業務の最適化に向けた協創について説明した。これまでに、トラック台数を最大10%削減するとともに、熟練者と同等もしくはそれ以上の実効性のある配送計画を立案できる見通しが得られているという。2018年11月から、三井物産グループの子会社2社と数拠点で共同実証を行ってから、2019年度をめどに同2社の各拠点への本格的なシステム導入を進める計画。日立製作所も、協創の成果をIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「Lumada」の物流分野向けソリューションに取り込み、さまざまな業界向けにサービスを提供する方針である。
両社が検討してきたのは、熟練者に依存してきた配送計画の立案を自動化するシステムである。配送業務の中でも配送計画の立案は、配送するルートの状況、配送に用いるトラックの台数などのリソース、過去の配送計画、配送先のさまざまな条件、トラックで配送を行うドライバーの適正、荷量の変化、燃料や賃金などの物流コストなどを勘案して、熟練者が自身の経験に基づき行っている。
検討してきたシステムでは、配送を行うユーザーのITデータ(配送情報や拠点情報)、マシンデータ(トラックのGPS情報)、ヒューマンデータ(業務時間や荷卸時間)など各種データを収集。これらのデータから移動時間や荷卸時間の実態を分析してデータ化する。これらの分析データを用いて、日立製作所が社内の物流業務を対象に2013年から知見やノウハウを積み上げてきたアルゴリズムで処理し、物流拠点のトラック横付けスペース(バース)の利用順序や各店舗への配送日などを含めた配送計画を自動立案する。さらに、実際に配送業務を担う現場や、物流センターなど配送業務全体の管理者向けに、ダッシュボードを用いたKPI(重要業績評価指標)の見える化も行う。
システムの導入による利点は3つある。1つ目は、勘と経験に基づく配送計画からの脱却による「物流コストの削減」。2つ目は、IoTを用いた動態監視と予実管理、見える化による「配送計画の改善の把握」である。そして3つ目は、地図サービスやデジタルタコグラフとの連携などLumadaにない他社サービスとオープンにつながることによる「顧客ニーズへの柔軟な対応」になる。
今回の配送業務の最適化に向けた協創は、2017年度に三井物産から日立製作所に打診があり検討が始まった。実際に、三井物産グループ会社のある拠点における配送業務の実態を基にして、配送計画の自動立案システムを適用するとどこまで効率化できるかを机上で検討した(現在は検討結果を部分的に導入済み)。同拠点では、トラック台数50台、配送先の店舗数約300店舗に対して、バースの数が10カ所と少ないことが課題になっていた。
バースをやりくりしながら、店舗の納品時間を厳守できる配送計画を立案するには、熟練者の経験が必要だった。しかし、検討したシステムを用いてバース利用順序と配送ルートを同時決定することにより、トラックの台数を45台に削減できたという。「熟練者は基本的に納品時間の早い配送先のトラックを優先してバースを割り当てていた。しかしシステムが立案した配送計画は、納品時間の早い配送先のトラックを少し後回しにするなど熟練者が思い付かない内容だったが、実際に問題なく配送できたし、トラックの台数も減らせた」(日立製作所 産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 流通システム本部 第二システム部 技師の宇山一世氏)。
システムの導入により、配送計画を立案できるレベルの熟練者を他の配送業務に回すなど、人材不足に直面している物流現場の課題に対応できるようになる。また、熟練者ではない人員が配送計画を担当することも可能になるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 物流へのIoT適用を考える
日本型モノづくりの象徴ともいうべき「トヨタ生産方式」。本連載では多くの製造業が取り入れるトヨタ生産方式の利点を生かしつつ、IoTを活用してモノづくりを強化するポイントについて解説していきます。第6回は、グローバル化の進展によって重要度を増している物流でIoTを活用する考え方について説明します。 - 物流と一体化した自動化工場、アイリスオーヤマの関東戦略工場が始動
アイリスオーヤマは茨城県阿見町に国内9カ所目となる工場を建設し、このほど稼働を開始した。物流と工場の一体化を進め、LED照明の生産と供給、関東地域における物流の競争力強化を目指す。 - 60台のロボットが自由に行きかうスマート倉庫、21万点の製品から自動ピッキング
総合物流サービスを提供展開するサンリツは、ロボットソリューションを提供するスイスログの自動ロボット制御ピッキングシステムを同社の物流倉庫に導入した。医療機器メーカーのボストン・サイエンティフィック ジャパンが使用し、約21万点の製品の保管や製品出荷に対応する。 - 完全自動化だけが物流のスマート化じゃない、既存設備生かす協働ロボットを提案
GROUNDは、「国際物流総合展2018」の大和ハウス工業ブースにおいて、自律型協働ロボット「AMR(Autonomous Mobile Robot)」を用いた物流施設におけるピッキング業務のデモンストレーションを披露した。 - プロジェクションマッピングで荷仕分けを支援、パナソニックとIHIが共同展示
パナソニックは、「国際物流総合展2018」において、IHI物流産業システムと共同で「プロジェクションマッピングを活用した荷仕分け支援システム」を参考出展した。 - 2020年に10万人不足するトラックドライバー、自動運転は物流を救えるか
DeNAと共同で新しい物流サービスの開発に取り組むなど、自動運転技術の活用に積極的なヤマト運輸。ヤマトグループ総合研究所の荒木勉氏が、自動運転技術がもたらす物流サービスの可能性や物流業界の将来の課題について説明した。