60Aで充電可能なリチウムイオン電池、“水”の力で活物質スラリーを滑らかに:組み込み開発ニュース
水の研究開発を基にした電池の開発と製造を手掛けるアプライドサイエンスと、マレーシアのクンプラン・パワーネットは、一般的なモバイルバッテリーと同じ3000mAhの容量の充放電を3分で完了するリチウムイオン電池技術「ハイレートセル」を開発したと発表した。
水の研究開発を基にした電池の開発と製造を手掛けるアプライドサイエンスと、マレーシアで繊維と精密機器の加工を主力事業とするクンプラン・パワーネット(Kunpulan Powernet)は2018年9月28日、東京都内で会見を開き、一般的なモバイルバッテリーと同じ3000mAhの容量の充放電を3分で完了するリチウムイオン電池技術「ハイレートセル」を開発したと発表した。2019年春からモバイルバッテリーとして販売を開始し、2020年には超高速の充放電が可能なEV(電気自動車)用電池としての製品展開も想定している。
ハイレートセルで開発したリチウムイオン電池は60A(容量3000mAhなので20C)の電流で急速充放電が可能であり、専用の充電器を使ってこの大電流を出力すれば3分で充電できるとする。また、入力パワー密度は4500W/kg以上、出力パワー密度は5000W/kg以上になるという(条件は50℃、SOC50%、5秒)。これらのパワー密度は一般的なリチウムイオン電池と比べて10倍以上に達する。会見では、試作したラミネート型の電池セルと電源装置、電圧計、セルの温度変化を確認する実験装置を用いて、容量の約90%までを3分以内に充電する様子を見せた。
アプライドサイエンス 社長の鵜澤正和氏は、ハイレートセルの急速充放電が可能な理由について「電極に活物質を塗布する際には、活物質と水を混錬してスラリー(懸濁体)を作る。ハイレートセルでは、私が長年研究してきた“クラスターの微細な水”を用いることにより、混錬の際に“ダマ”ができない極めて滑らかなスラリーを用いた。活物質の均一性が高いため内部抵抗を極めて低くすることができる」と説明する。一般的なリチウムイオン電池の内部抵抗は80mΩあるが、ハイレートセルのリチウムイオン電池の内部抵抗は3.5mΩ以下だという。内部抵抗が低いことによりセパレータを傷めにくいので、サイクル寿命も一般的なリチウムイオン電池の約3倍となる1500回を達成した(当初容量80%になるまで)。
ハイレートセルによるラミネート型電池シングルセルの他の性能仕様は以下の通り。体積エネルギー密度は230Wh/l(リットル)以上(重量エネルギー密度180Wh/kgという表記もある)で、一般的なリチウムイオン電池と同等とする。定格電圧は3.7V(満充電時)、放電終止電圧は2.6V、重量は90±5g、寸法は幅60×長さ80×厚さ9mm。動作温度範囲は充電時が0〜50℃、放電時が−10〜60℃※)。
※)これらの性能仕様(容量3000mAh、定格電圧3.7V、重量90g)を基に重量エネルギー密度を計算すると123.3Wh/kgになる。
“クラスターの微細な水”を用いた活物質スラリーの作成の他、スラリーの塗工プロセス、使用する活物質の粒径選定などに工夫はあるものの、これらの他は一般的なリチウムイオンと同じ材料を使用している。なお、“クラスターの微細な水”については「一般的な水のクラスターは水分子15〜20個で構成されるが、これを3〜4個にしたもの」(鵜澤氏)だという。
2019年春に予定している、ハイレートセルのモバイルバッテリーの販売開始に向けて4億円を投資する。日本国内でリチウムイオン電池の重要部品を作り、中国で電池セルを生産。最終的なパッケージングや認証取得は国内で行う予定だ。
モバイルバッテリーの完成予想としては、バッテリー本体の外形寸法が幅6×長さ10×厚さ1.5cm、重量が約200g、ハイレート電池の急速充電を行うため冷却ファンなども付いた専用充電器の外形寸法が幅10×長さ18×4.5cm、重量が約800gになるという。
アプライドサイエンスはLTO電池も手掛ける
アプライドサイエンスのWebサイトの開発製品の項目には、負極にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン電池(LTO電池)も紹介されている。その性能仕様は、充電速度6分、重量エネルギー密度70Wh/kg、サイクル寿命1万回などとなっている。
LTO電池で広く知られているのが東芝の「SCiB」だ。アプライドサイエンスのLTO電池の性能は、ハイブリッド車向けなどSCiBのパワー密度重視製品の仕様に近い。
一方、ハイレートセルの性能仕様が重量エネルギー密度180Wh/kg、出力パワー密度が5000W/kg以上とすると、SCiBにおける重量エネルギー密度重視とパワー密度重視の製品、双方の性能を満足することになる。
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