なぜインテルはコンピュータビジョンに注力するのか、エッジへの分散処理が鍵に:人工知能ニュース
インテルがAI技術の1つとして注目されている「コンピュータビジョン」への取り組みについて説明。2018年5月に発表した無償のコンピュータビジョン開発ソフトウェア「OpenVINOツールキット」は日本市場でも浸透しつつあるという。
インテルは2018年9月11日、東京都内で会見を開き、AI(人工知能)技術の1つとして注目されている「コンピュータビジョン」への取り組みについて説明した。2018年5月に発表した無償のコンピュータビジョン開発ソフトウェア「OpenVINOツールキット」※)がさまざまな企業に採用されており、「日本でも複数の産業でアクティブに使ってもらっている。次にOpenVINOツールキットの新機能を発表する際には、これら日本企業の事例を具体的に紹介できるだろう」(米国本社のIoT事業本部でバイスプレジデント ビジョン・マーケット・チャネル事業部長のジョナサン・バロン(Jonathan Ballon)氏)という。
※)関連記事:インテルが画像認識ソフト開発ツールを無償提供「IoTの“I”は“Eye”」
バロン氏は、コンピュータビジョン市場規模が2023年までに173億8000万米ドルに、ディープラーニング(深層学習)関連の売上高が2016年の6億5500万米ドルから2025年に350億米ドルに、動画解析の市場規模が2022年までに111億7000万米ドルになるなど、コンピュータビジョンに関わる市場が急成長していることを紹介。その要因として、監視カメラなどのアナログからデジタルへの移行と、それによって画像がデータとして扱えるようになったことを挙げた。また、インテルが2013年ごろからグローバルで注力してきたスマートシティー分野において、セキュリティや交通監視をはじめコンピュータビジョンの活用が進んでおり「ここで培った技術を他分野に展開できる」(同氏)としている。
小売り、製造、輸送、医療などコンピュータビジョンが価値を生み出す分野は広がっている。ただし、ディープラーニング、コンピュータビジョンといったAI技術を開発する上でインテルよりも大きな存在感を持っているのはNVIDIAであり、売上高で圧倒するインテルが優位にあるとは言い難い。バロン氏は「ではなぜインテルはコンピュータビジョンに関わるのか。これまでクラウドやデータセンターでコンピュータビジョンの学習と推論が行われてきたが、これからはエッジにコンピュータビジョが広がっていく。IoT(モノのインターネット)導入時の制約の45%がネットワークといわれる中、クラウドで学習したアルゴリズムを用いてエッジで推論を行うことが当たり前になり、分散型のコンピュータアーキテクチャに移行していく」と強調する。
この分散型コンピュータアーキテクチャに対応可能な、クラウドからエッジに至るまでの幅広い製品ポートフォリオを有しているのはインテルだけであり、だからこそコンピュータビジョンに関わるというわけだ。
「OpenVINOツールキット」は無償かつオープンソース
インテルのコンピュータビジョン向け製品は「ATOM」「Core i」「XEON」といったプロセッサ製品群があり、これらに加えてアクセラレーターとなる旧アルテラ(Altera)のFPGAやモビディウス(Movidius)のVPU(Vison Processing Unit)「Myriad」がある。そして、これらのインテル製品上で動作させるディープラーニングに基づく推論アルゴリズムを容易に開発できるのがOpenVINOツールキットである。
OpenVINOツールキットは、「Caffe」や「TensorFlow」をはじめ100以上のディープラーニング開発用のフレームワークをサポートしており、さまざまなインテル製品上で最高のパフォーマンスを発揮するコンピュータビジョンの推論アルゴリズムを容易に開発することができる。また、無償で入手可能であり、オープンソースソフトウェアでもある。既に大手医療機器メーカーのGEヘルスケアや、画像解析システムを手掛けるイスラエルのAgent Viなどに採用されている。「速度、性能、生産性の3点で高い評価受けている」(バロン氏)という。
OpenVINOツールキットで開発したディープラーニングの推論性能は、「Core i7-7800X 」がNVIDIA「Tesla P4」の2倍以上に達する。またアクセラレーターについては、1米ドル/1W当たりの推論性能で、「Arria 10」を搭載するFPGAカードがTesla P4の1.4倍以上、モビディウスのVPU「Myriad 2」がNVIDIA「Tegra TX2 Jetsonモジュール」の5倍以上を達成したとしている。
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