「こころの個性」に関わる遺伝子とその進化過程を解明:医療技術ニュース
東北大学は「こころの個性(精神的個性)」に関わる遺伝子を特定し、その進化機構を明らかにした。ヒトのこころの多様性が進化的に維持されている可能性を、進化遺伝学的手法によって初めて示した。
東北大学は2018年8月21日、「こころの個性(精神的個性)」に関わる遺伝子を特定し、その進化機構を明らかにしたと発表した。この研究成果は、同大学大学院生命科学研究科 教授の河田雅圭氏らによるものだ。
同研究では、哺乳類15種のゲノム配列を用いて、精神疾患の関連遺伝子588個について進化の速度を推定した。その結果、CLSTN2、FAT1、SLC18A1の3つの遺伝子が、人類の進化の過程で自然選択を受け、加速的に進化してきたことを見出した。
特に、SLC18A1遺伝子の136番目であるアミノ酸座位は、ヒトがスレオニン(Thr)とイソロイシン(Ile)の2つの型を持つのに対し、ヒト以外の哺乳類は全てアスパラギン(Asn)だった。
136番目のアミノ酸がThrであるSLC18A1遺伝子を「Thr型」、同アミノ酸がIleであるものを「Ile型」とすると、ヒトの集団中にThr型とIle型は約3:1の割合で存在している。このことから、136番目のアミノ酸は人によって異なり、それぞれThr/Thr、Thr/Ile、Ile/Ileの3つの遺伝子型のどれかを持つことが分かった。
Thr型、Ile型については、Thr型の方が小胞への神経伝達物質の取り込み効率が低いこと、うつや不安症傾向、神経質傾向が強いこと、また双極性障害や統合失調症などとの関連が先行研究で指摘されていた。
同研究グループは、これまで明らかにされていなかった、Thr型、Ile型の進化過程の解明を試みた。その結果、Thr型はネアンデルタール人の時点には存在していること、その後、ヒトがヨーロッパやアジアなどに広がった際に、抗うつや抗不安傾向を示すIle型が自然選択を受け有利に進化したことなどが確認された。ただ、Ile型とThr型が、どちらか一方に置き換わってしまうことはなく、両方の遺伝子が積極的に維持されるような自然選択が働いていると考えられる。
今回の研究成果により、個性の違いや精神疾患について進化学的な意義が示された。今後、十人十色といわれる個性の捉え方や精神、神経疾患について、生物学的、社会的な意義を考える際に、同成果が示唆を与えることが期待される。
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