乾癬の原因は皮膚表面の細胞にあった、有効で安価な新薬の開発へ:医療技術ニュース
京都大学は、皮膚表面の表皮にある細胞内シグナル伝達物質「TRAF6」が、乾癬の発症や持続に必須であることを発見した。TRAF6が抗体医薬に代わる新しい治療の標的となり得ることが示された。
京都大学は2018年8月16日、皮膚表面の表皮にある細胞内シグナル伝達物質「TRAF6」が、乾癬(かんせん)の発症や持続に必須であることを発見したと発表した。同大学大学院医学研究科 教授の椛島健治氏らの研究グループが明らかにした。
乾癬は、免疫の異常な働きが表皮に作用し、活性化した表皮がさらに免疫の異常な働きを促進するという悪循環の持続が問題と考えられている。研究グループは、表皮にこの悪循環を支配する物質があるという仮説を立てた。
その物質がTRAF6であるとし、表皮でTRAF6を欠損させたマウスに乾癬の発症を誘導することを試みた。その結果、野生型のマウスでは乾癬に見られる免疫の異常な活性化が起こり、乾癬が発症したが、TRAF6欠損マウスでは、免疫の異常な活性化が起こらず、乾癬が発症しなかった。
さらに、TRAF6欠損マウスの皮膚に、IL-23というサイトカイン(免疫調節因子)を注射し、乾癬に特徴的な免疫異常を直接誘導したが、表皮の活性化が起こらず、乾癬の発症は抑制された。
これらの成果から、表皮の働きが乾癬の皮膚に見られる免疫の異常な活性化に必須の役割を持つこと、表皮のTRAF6が乾癬の発症や異常な免疫の活性化の悪循環による乾癬の持続にも必須の物質であることが明らかになった。これにより、免疫の異常によって産生される物質ではなく、その上流で免疫を調節する皮膚の働きが、新しい治療の標的となり得ることが示された。また今後、TRAF6が従来の抗体医薬に代わる新しい治療の標的となり、抗体医薬による治療の課題を解決することが期待される。
関連記事
- 薬剤耐性B型肝炎にも作用する治療薬の開発へ、エイズウイルスが貢献
産業技術総合研究所は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を用いて、現在B型肝炎治療に広く用いられている核酸アナログ製剤「エンテカビル」が作用する仕組みと、薬剤耐性が生じる仕組みを明らかにした。 - うつ病の新たな治療法を発見、選択的セロトニン再取り込み阻害薬とは異なる仕組み
大阪大学は、うつ病の新たな治療メカニズムを発見したと発表した。セロトニン3型受容体が海馬のIGF-1分泌を促進することにより、海馬の新生ニューロンを増やし、抗うつ効果をもたらす。 - 脳梗塞の新たな治療薬を発見、治療可能時間を8時間程度に延長
新潟大学脳研究所の下畑享良准教授らの研究グループは、脳梗塞の治療法である血栓溶解療法の弱点とされる合併症(脳出血、脳浮腫)を抑制し、かつ脳の神経細胞を保護し、炎症を抑える治療薬を発見した。 - 脊髄損傷の治療効果を劇的に高める「組み合わせ」治療法を発見
九州大学は、脊髄損傷で神経幹細胞移植をした際の治療効果を劇的に高める方法を発見した。脊髄損傷マウスの急性期に抗HMGB1抗体を投与し、その後ヒトiPS細胞由来神経幹細胞を移植する「組み合わせ」治療で、劇的に高い治療効果が得られた。 - 便秘症の治療薬に慢性腎臓病の進行を抑制する効果
東北大学大学院の阿部高明教授らは、便秘症の治療薬であるルビプロストンが腸内環境を改善して体内の尿毒素蓄積を軽減し、その結果、慢性腎臓病の進行を抑える効果があることを明らかにした。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.