日本の積層造形の取り組みは周回遅れ、今から世界に追い付くには?(後編):金属3Dプリンタ(2/2 ページ)
金属3Dプリンタの最新動向や課題を語る「Additive Manufacturingのためのシミュレーション活用セミナー」(サイバネットシステム、アンシス・ジャパン主催)が2018年7月4日に東京会場、5日に名古屋会場で開催された。
金属造形の分類
木寺氏は金属造形について以下のような分類を示した。金属を溶融させる熱源は、ビームとアークに分けられ、ビームにはレーザーおよび電子がある。一方、材料の供給方式はワイヤとパウダーがあり、パウダーは一層ずつ敷き詰めていくPB(パウダーベッド)方式と、ノズルを介して必要な量を供給する方式に分けられる。これらの組み合わせによってさまざまな装置がある。
レーザービーム、パウダー供給の方式はLMD(Lase Metal Deposition)と呼ばれ、補修がメインになる。複数の材料を任意の比率で供給できるため、合金を容易に造形できるのが特徴で、実際に同社の販売製品も合金開発に使われているものも多いという。Stanleyによる、刃先にタングステンカーバイド、セラミックを積層させマルチマテリアル材料を実用化した事例がある。
電子ビームでパウダーベッドの方式はEBM(Electron Beam Melting)と呼ばれる。質量ビームのため粉末をあらかじめ固めておく必要がある。真空中のためチタンなど酸素を嫌う材料に適する。
電子ビームとワイヤの組み合わせは巨大な部品が多く、戦闘機のフラップや、ロケットの燃料タンクなどの造形例がある。
アーク溶接とワイヤを用いる方法のメリットは低コストであることだ。簡単にいえば溶接機をロボットに乗せるだけのため、造形ソフトは別途必要になるものの、その気になれば100m規模の造形もできるという。
トライ&エラーの積み重ねが技術力の差になる
同社も装置の導入時はトライ&エラーの繰り返しだったといい、その経験が積み重なって技術力の差になると木寺氏は述べた。今からスタートして短期間で技術力を身に付けようとする場合、既に技術を持つ企業との共同開発も候補になるという。
テスラは部品の造形に取り組み開発タクトタイムを削減しようとしている。またロッキード・マーティン、エアバス、ポルシェ、ブガッティなど多くの事例が出てきている。AMマーケットは毎年20%以上の成長をしており、2025年くらいまでは続くといわれている。「3年前にBMWは、2025年に一般車に採用するために動いていると公言していた」(木寺氏)という。SLM装置を購入した時は、社内で部品を作らせ、センスややる気のある人を見つけたという。日本でも自動車向けに装置が多く出ている。また装置メーカー、ユーザー共に、試作機から量産機へと視線が移るようになってきたとのことだ。
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