CADデータをそのまま金属3Dプリンタに――SLMの最新技術はソフトが肝:金属3Dプリンタ(2/2 ページ)
愛知産業の技術セミナーでSLM方式積層造形装置の第一人者が登壇した。金属積層造形の動向やSLM技術の歴史などを語るとともに、同社が開発するSLM装置向け統合ソフトウェアについても紹介した。
生産性と品質向上の取り組み
製造業において3Dプリンタに求められるのは軽量化とコスト削減になる。積層造形技術がもっとも活用されている分野は航空宇宙だ。1kg当たりのコスト削減額は、航空宇宙プロジェクトだと1万ユーロ(130万円)、航空機設計では千ユーロ(13万円)、自動車産業だと10ユーロ(1300円)になるとされる。
そのためより高速で品質のよい製品の製造を目指すことになる。造形時間を増加させる要因には、リコーティング(粉末を薄く敷く機構)や粉末の性質、造形物の向き、レーザーエネルギーや温度伝導度などさまざまなものがある。
同社のリコーターは片道ごとに一層敷くことができるため、通常の一往復ごとに一層敷くタイプより高速になる。レーザーのビームプロファイルについては、繊細な造形が可能なガウス型と、速さが求められる時に使用されるトップハット型がある。質とスピードを考慮して、それぞれ適切な方法を選ぶ必要がある。
現在、SLM社の装置では波長が1064nmの「Nd:YAGレーザー」を採用している。これは多くの材料でこの波長の光の吸収率が高いためだ。ただしこの波長は銅には適していないため、一般的にはより短い波長を用いることもある。「今後の動きとしては、各部品、各材料に合わせた装置の開発が必要になってくると考えられる」(シェーネボルン氏)。
SLM 500は最大4台のレーザーを搭載できる装置だが、複数のレーザーを使用するとレーザー光同士がオーバーラップするエリアが生じて、造形品質が悪くなる。これについてはエリア校正の特許技術により、境界線が生じない造形を可能にしている。
なお、マルチレーザーだと造形速度が大幅に向上すると思われがちだが、例えば同じ体積でも形状によって差が生じる。底面が1×1インチ(2.54×2.54cm)、高さが8インチの形状では、レーザー数やレーザー径などの条件を変えてもあまり差は出ないが、一辺が2インチの立方体の場合は、条件を変えることによって大幅に速度を向上できる。
造形物の品質管理面では、レイヤーコントロールシステムを構築している。一層ずつ写真を撮影して状況をチェックし、粉末がうまく敷かれていない場合は造形をストップさせたりできる。またレーザー出力モニタリングや、溶融池モニタリングシステムといった、レーザー光の状態や粉末の溶融箇所の温度をモニタリングできる機構も備える。
STLファイルへの変換不要、サポート減を実現
積層造形においてはソフトウェアが非常に重要になる。ソフトウェア開発会社を立ち上げたのもそのためだ。造形データを準備するソフトウェアでは、造形データやサポート材の設定などを行う。また1つのプレートに幾つも部品を造形すると後加工が大変なため、分割できる機能もある。生産に入ると、どの条件で造形されたかという情報管理が重要になるため、ファイル管理を徹底している。
大きな取り組みの1つが、CADデータをSTLデータに変換する必要がなくなることだ。従来は造形データは、「Materialize Magics」などのソフトウェアを使い、STLデータに変換する必要があった。SLM社が開発したソフトウェア「ADDITIVE.Designer」では、各種CADデータをそのまま取り込むことが可能になる。スライスデータも直接CADデータから作成するため、造形品質の向上を見込める。ADDITIVE.Designerはドイツ語で開発済みであり、今後多言語に展開する予定である。
また造形物が大型になるほどデータ量も大きくなるため、ゲームで採用される処理方法により処理速度を高めている。またさまざまなシミュレーションソフトウェアにも対応するという。
ADDITIVE.Designerでは、造形物の角度なども含めて検討できる。一般的には造形物の傾きが45度以下になるとサポート材が必要だといわれるが、開発中のソフトウェアでは、造形スピードや品質管理、物理的な強度などを総合的に判断し、また正確に調整することによって、20度までサポートなしの造形も可能になる(図4左)。図4右はターボチャージャーで、通常は内部にサポートを立てるところをなしで造形している。
他にもユーザーの権限を段階的に設定して、変更が可能な範囲を個別に設定したり、電気代や粉末価格、造形時間などの入力により、部品1つ当たりのコスト計算ができるといった機能を備える。
シェーネボルン氏はSLM装置による造形例として、軽量化に成功したブラケットや、冷却性能を高めた高圧リアクター、軽量化と空冷性能を高めたギアボックスなどの例を示した。また内部に特別な構造を作り込むことにより、外からはその構造が見えずコピーされにくくなるカギや、小型のバッグに全て入ってしまうほど軽量化された自動車フレームといった例も紹介した。
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