PTCとアンシスはなぜ提携したのか「両社は最適なパートナー」:LiveWorx 2018
PTCは、年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2018」において同社製品の開発状況について説明した。同日午後に行われた、同社 社長兼CEOのジェームズ・E・ヘプルマン氏の記者会見の内容と併せて紹介する。
PTCは2018年6月18日、年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2018」(同年6月17〜20日、米国マサチューセッツ州ボストン)内で説明会を開き、同社製品の開発状況を紹介した。同日午後に行われた、同社 社長兼CEOのジェームズ・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏の記者会見の内容と併せて紹介する。
リアルタイムシミュレーションは「Wordのスペルチェック機能と同じ」
3D CAD「Creo」については、最新バージョンの「Creo 5.0」におけるジオメトリエンジンの強化とトポロジー最適化機能の導入が大きな変更になる。また3DデータとIoT(モノのインターネット)やAR(拡張現実)とのコネクティビティ設計ツールとなる「Creo Product Insight」も重要な役割を果たしているという。「2017年の1年間で、5万点のARエクスペリエンスがCreoで作成された」(PTC CADセグメント シニアバイスプレジデントのブライアン・トンプソン氏)という。
次バージョンの「Creo 6.0」は2019年3月をめどに開発が進んでいる。その目玉機能となるのが、アンシス(ANSYS)のリアルタイムシミュレーションツール「Discovery Live」※)の導入である(Creoでの機能名は「Creo Simulation Live」となる予定)。投入時期については、早ければ2018年秋というコメントも出ていたが、Creo 6.0に合わせての導入が現実的な線になりそうだ。なお、現行のCreo 5.0、前バージョンの「Creo 4.0」でもDiscovery Liveを利用できるようにする方針である。
※)関連記事:複雑なシリンダブロックも境界条件入れて数秒で結果表示「Discovery Live」など販売開始
へプルマン氏は、数ある3D CADベンダーの中から、アンシスがなぜPTCをDiscovery Liveの導入パートナーに選んだかについて「競合ベンダーと比べて、PTCはシミュレーション関連のポートフォリオが充実しているとはいいがたい。しかし、だからこそシミュレーションのトップベンダーであるアンシスにとって、PTCは最適なパートナーになるといえるのではないか」と説明した。また、アンシスは3D CAD「SpaceClaim」を展開しており、Discovery Liveとの連携も可能だが、「やはり設計者としては、パラメータ情報を維持したままリアルタイムシミュレーションを行いたいという要望が強い。ノンパラメトリックCADのSpaceClaimではできないことだ」(同氏)という。
また、へプルマン氏は、CreoへのDiscovery Liveの導入について大きな期待を示し「Wordのスペルチェック機能と同様に、必携の機能にしていきたい。デジタルツインを実現する上で極めて重要だ」と強調した。なお、Creoで利用できるDiscovery Liveの機能は、構造解析、熱解析、モーダル解析となっているが「熱流体解析にも対応したい」(へプルマン氏)としている。
ARブランドを「Vuforia」に統一
最新バージョンの8.3がリリースされたばかりのIoTプラットフォーム「ThingWorx」については、他社のシステムやデバイスを組み込んでのアプリケーション開発を、コードベースではなくGUIベースで行えるようにする機能「Orchestration and Integration」を2018年秋に導入する予定だ。
また、これまでThingWorxの一機能である「ThingWorx Studio」として展開してきたARプラットフォームは、2015年11月の買収時のブランド名「Vuforia」に再度統一することとなった。一般向けにも提供していた開発ツール「Vuforia SDK」を「Vuforia Engine」に改称するとともに、ThingWorx Studioは「Vuforia Studio」、ARを各種機器で表示するための「ThingWorx View」は「Vuforia View」となる。また、現実の物体にチョークで書き込むなどして情報共有を可能にするアプリも「Vuforia Chalk」として展開する。
Vuforiaの開発コミュニティーは50万人、既に5万のアプリケーションがあり、これらが5億回ダウンロードされているという。へプルマン氏は、現在のPTCのARビジネス規模について「年間2000万米ドル(約22億円)程度だが、毎年倍増の勢いで成長を遂げている」と説明。また、「一般向けのVuforia Engineよりも、B2B向けのソリューションとしての売り上げの方が大きい。今後のデジタル革新においてARの役割は極めて重要であり、当社は良いポジションにあると考えている」(同氏)とした。
なぜ「産業イノベーションプラットフォーム」なのか
なお、PTCは2017年後半から、ThingWorxの製品カテゴリーをIoTプラットフォームではなく「産業イノベーションプラットフォーム」と呼称している。へプルマン氏は「IoTだけを扱うのであれば、IoTプラットフォームでよかったが、ARや解析などもカバーするとなると、もはや何と呼んでいいかは分からない。何よりもデジタル変革こそが重要であり、それを実現可能なものということで、産業イノベーションプラットフォームと呼ぶことにした」と述べている。
関連記事
- 「フィジカルとデジタルの融合」に「人」が加わり、IoTとARは真価を発揮する
PTCの年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2018」の基調講演に同社 社長兼CEOのジェームズ・E・ヘプルマン氏が登壇。ヘプルマン氏は、デジタル変革に向けて必要としてきた「フィジカルとデジタルの融合」に「人」が加わることで、より大きな力を生み出せると強調した。 - 複雑なシリンダブロックも境界条件入れて数秒で結果表示「Discovery Live」など販売開始
アンシス・ジャパンは同社の設計者向けCAEツール群「ANSYS Discoveryファミリー」を国内で販売開始した。そのうちの1つであるDiscovery Liveは、境界条件から計算結果表示までが数秒と高速で、かつその場でモデルの修正をしても即座に形状が修正される。 - Creo 5.0にトポロジー最適化の実装、直接CADから熱流体解析も可能に
PTCは3D CADシステムの最新版「Creo 5.0」を発表。トポロジー最適化や熱流体解析、金属3Dプリンタ出力に対応。トポロジー最適化で生成する形状は3D CADでの設計でそのまま利用できる。 - IoT時代の設計へ、実機データと3D CADをつなぐ「Creo Product Insight」を発表
PTCは3D設計ツール新製品「Creo 4.0」の最新アップデートとして、「コネクティビティ設計」ツール、3Dプリント連携システムに関する追加情報、ARデータ出力ツールについて明かした。 - 「ThingWorx 8」に“ネイティブ”な4つの新機能、役割ベースアプリも新たに追加
PTCは、年次ユーザーカンファレンス「LIVEWORX 2017」において、IoTプラットフォームの新バージョン「ThingWorx 8」を発表。PTCがThingWorx以降に買収してきたさまざまな企業のソフトウェア/ツールがより緊密に統合され、“ネイティブ”な機能として加わった。生産ライン向けの役割ベースアプリケーションも追加する。 - CADの設計にIoTやARは役立つか、PTCがミズノやバンダイの3Dデータで提案展示
PTCの年次ユーザーカンファレンス「LIVEWORX 2017」では、3D CADツール「Creo」を使った設計プロセスにIoTやARをどのように役立てられるかについての提案展示が行われた。展示の3Dデータは、Creoのユーザーであるミズノ、バンダイ、ヒロボーが提供した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.