製造業に迫り来る4つの「危機」、脱するために必要な「つながる産業たち」:製造業IoT(2/2 ページ)
製造現場や生産管理の先進化や効率化を目指す展示会「スマートファクトリーJapan 2018」(2018年5月30日〜6月1日、東京ビッグサイト)の講演に経済産業省 製造産業局長 多田明弘氏が登壇。「大変革に直面する製造業と“Connected Industries”推進に向けた取り組み」をテーマに2017年3月に発表した「Connected Industries」の進捗度について紹介した。
製造業が迎える4つの危機
これらの状況を踏まえ、多田氏は製造業に対する4つの危機があると指摘する。4つの危機は以下の通りだ。
- 人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていない恐れがある(人材スキル変化、デジタル人材不足、システム思考不足など)
- 従来「強み」と考えてきたものが変革の足かせになる可能性がある(すり合わせ重視、取引先の意向偏重、品質への過信など)
- 経済社会のデジタル化などの大変革期を経営者が認識できていない可能性がある
- 非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれがある(自前主義の限界、ボトムアップ経営依存など)
多田氏は「これまで日本の製造業は数々の不況、困難を乗り越えてきたが、今押し寄せている危機は、これまでと質が違うと認識している。これらの4つの危機を認識し、それに積極的に対応していく姿勢が必要だ」と指摘した。
これらの4つの危機から生まれる日本の製造業の主要課題は2つの姿で現れている。1つ目は「モノ」の生産という意味での価値が下がり、「モノ」から「サービスおよびソリューション」へ付加価値が移行する中で、新たな環境変化に対応した付加価値獲得の必要性だ。
2つ目は、深刻化する人手不足での現場力の維持と強化、デジタル人材の育成と確保を同時に行わなければならないというい点だ。経営主導で先進ツールの利活用や変革期に必要な人材確保への取り組みが必要となっている。
4つの危機と2つの主要課題を解決する「Connected Industries」
これらの課題に対応する方向性となるのが「Connected Industries推進」と「新たな『現場力』の再構築と品質保証体制の強化」などの施策となる。
「Connected Industries」とは「さまざまな業種、企業、人、データ、機械などがつながって、新たな付加価値や製品、サービスを創出し生産性を高めていく取り組みだ。それにより高齢化、人手不足、エネルギー制約などの社会課題を解決し産業競争力を高め、さらに国民生活の向上や国民経済の健全な発展に結び付ける」(多田氏)。
このConnected Industriesの実現は、業種や業態、これまでのIT化の取り組み度合いによって多種多様に存在する。1つの工場内の「つながり」にとどまるものもあれば、取引先や同業他社とつながったり、顧客や市場と直接つながったりするものもある。既存の関係を越えてつながりが広がれば、新たな産業構造の構築に至る可能性も出てくる。
また、Connected Industriesの「つながり」のイメージとしては、空間的には事業所から企業、グループ企業から関連他社、サプライチェーン、そして異分野(企業、大学、個人)へと広がる。また、時間的には先人たちのノウハウ、現役世代、将来世代へと引き継いでいくことになる。さらに「つながる」だけでは不十分であり、「つながって何をするのか(生産性向上や新たな付加価値創出などの目的)が重要だ」と多田氏は強調する。
ただ、産業界からはConnected Industriesに対して「抽象的過ぎて分かりにくい。目に見える形が思い浮かばない」「ハードウェアだけではダメと理解。しかし、何をしていいか分からない」「現場にとっては工場でのカイゼンこそが全体最適」などの声が寄せられたり、「企業としての取り組みにくさ」「人材(実体験を伴う語り部的人材、現場と会話できる専門家)の不足」「全体最適と部分最適のバランスの難しさ」などの課題があったりする。
Connected Industriesの5つの重点取り組み分野は「自動走行、モビリティサービス」「モノづくり、ロボティクス」「プラント、インフラ保安」「スマートライフ」「バイオ、素材」で、これらを支える横断的支援策を早急に整備することが急がれている※)。
※)関連記事:日本版第4次産業革命が進化、製造含む5つの重点分野と3つの横断的政策(前編)
これらの取り組みが実現することにより、IoT、ロボットなどの導入で生産性を向上させたり、単純作業や重労働を省力化したりし、労務費を削減。テレワークともあいまって若者、女性、高齢者が働きやすくなる、というメリットが生まれ、これは人出不足解消、生産性向上、働き方改革につながる。
また、人工知能などによって匠の技を見える化し、若い職員のスキル習得を支援する。これにより技能の継承を実現する。さらに、職人の技能や創造性をデータ化し、それを生産設備につなぐことで、多品種、単品、短納期加工を実現し、新規顧客を獲得する。これにより利益の拡大を目指す。その他、過疎地での高齢者の移動、遠隔地への荷物配送が可能になる。歳を重ねてもクルマを安全に運転することや、運転できない人も自動運転で目的地へ移れる、などメリットが生まれ、この取り組みで社会課題解決(安全運転、移動支援)が見えてくるとしている。
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