生物の形質改良を加速する新しいゲノム改良技術を開発:医療技術ニュース
東京大学は、生物のゲノムDNAを大規模に再編成して形質の改良を著しく効率化する新技術の開発に成功した。さまざまな有用形質を持つ微生物や、新しい作物品種を効率的かつ高速に育種することが可能になる。
東京大学は2018年5月18日、豊田中央研究所、トヨタ自動車、理化学研究所と共同で、生物のゲノムDNAを大規模に再編成して形質の改良を著しく効率化する新技術の開発に成功したと発表した。同大学大学院総合文化研究科 教授の太田邦史氏らの研究グループによる成果となる。
研究では、多くの遺伝子が関わる複雑な形質を高速で改良できるゲノム改良技術「TAQingシステム」を開発。従来の交配による品種改良や放射線や変異源処理による品種改良と異なる方法で大規模にゲノムDNAを変化させ、複合的な新形質を効率よく得られる。
具体的には、DNA切断活性を温度で調節できる高度好熱菌由来のDNA切断酵素「TaqI」を生細胞内に導入。細胞を一時的に加温して活性化させ、同時多発的に細胞内のDNAを切断、再結合させ、効率的に多数の遺伝子が関わる複雑な形質を改良する。
こうした大規模なゲノムDNA再編成を起こした酵母細胞や植物は、さまざまな形態変化やバイオエタノール発酵性能の改善、バイオマスの増大などの形質変化を起こすことも解明された。さらに、生物進化の過程で重要な働きをする「ゲノム全体のコピー数増大」が起きると、複雑なDNA再編成が起こりやすいことも分かった。また、ゲノム中に散在する反復性配列が、DNA再編成の起点となりやすいことも発見された。
同技術により、さまざまな有用形質を持つ微生物や新しい作物品種を効率的かつ高速に育種することが可能になる。また、ゲノム進化の実験的検証や、合成ゲノム研究への応用も期待できる。
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