IoTやロボットで高齢者が安心して住める世界を―共創のまち・肝付プロジェクト(鹿児島県):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第21回。鹿児島県肝付(きもつき)町で住民を巻き込んで実施されている「共創のまち・肝付プロジェクト」に焦点を当てる。
イノベーションの概要
本土最南端、大隅半島南東部に位置する鹿児島県肝付町は、2005年に内之浦町と高山町が合併して誕生した。町が2015年に公開した「肝付町地域創生戦略」の「現状分析」によると、町の人口は1955年(昭和30年)をピークに減少し、2010年の人口はピーク時の約半数である1万7160人にまで減少している。1985年(昭和60年)時点で高齢社会に、1955年(平成7年)には超高齢社会に突入し、今後も高齢化率が高まると予測されている。
こういった現状の中、2015年にスタートした「共創のまち・肝付プロジェクト」は、「都市部の企業や大学とまちに住むさまざまな人々が交流し、高齢化や人口減少などの社会課題を解決するために、肝付町を舞台に共に製品の開発や研究を行うイノベーションプログラム」である。
テクノロジーの活用には大きな可能性があるものの、少子高齢化・人口減少の「最先端の課題現場」となっている肝付町では「利用者は一方的な製品の受け手(消費者)となっており、その声が製品に反映されることはなく、新しい技術と課題(困りごと)がうまくマッチせず、解決されない(困りごと)は増えていく」。一方で、研究・開発をしている企業や大学には逆の悩みがある。そこで、IT機器や介護ロボットなどに代表される製品の共同開発や実証実験・検証のフィールドを提供することで、地域の課題に密着した製品の開発や研究を行い、少子高齢化・人口減少に伴う課題の解決に取り組もうというのが、同プロジェクトだ。開発側にも、地域の住民や事業者にとっても有益であると同時に、開発企業などの呼び込み促進にもつなげたいと考えている。
例えば、2016年11月には、認知症の人の外出を顔認証によって通知するシステムのトライアルを3週間実施した。また、2009年度から徘徊による行方不明者を人力で発見するための「徘徊模擬訓練」を実施している新富地区では、2016年12月にビーコンを利用したシステム、GPSを利用したシステムのトライアルを実施。その第2弾として2017年3月には、ウオーキング大会の中で、住民も参加する形でトライアルが行われている。
その他、テレビ電話で高齢者と施設や病院をつないで効果を実証したり、Pepperと高齢者が触れ合う試みなども行われている。
イノベーションの地域性〜鹿児島県といえば……
桜島の噴煙が印象的な鹿児島県は温帯と亜熱帯にまたがっている。1月は北部では平均気温が氷点下になるが、南部では菜の花が咲く。巨大な縄文杉や登山で知られる屋久島の最高峰(1935m)は、冷温帯に属する。また26の有人離島があり、ビーチリゾートとして知られる与論島や奄美大島、宇宙センターのある種子島など、いろいろな顔を持っている。幕末・維新、またその後の発展に大きな役割を果たした地でもある。
食の宝庫という一面も持ち、「肉用牛」や「豚」「さつまいも」や「そらまめ」、「ブリ」「カンパチ」「ウナギ」の養殖などは生産量日本一である。
鹿児島県は唯一、日本のロケット発射基地(種子島、内之浦)を有する県でもある。今回紹介した肝付町には、「内之浦宇宙空間観測所」があり、町のキャッチフレーズも「やぶさめと、ロケットの町」。内之浦では日本初の人工衛星「おおすみ」以降、これまでに400機以上が打ち上げられており、日本中を感動させた「はやぶさ」もここから旅立っている。「宇宙科学」をテーマとした「肝付町スペースサイエンスタウン構想」を策定するなど、宇宙をキーワードにした取り組みも行われている。
ここに注目! 編集部の視点
日本は高齢化が世界で最も進んでいるといわれる。肝付町の高齢化率(2015年)は39.1%で、日本全体の平均より12ポイント以上高い。この町が「少子高齢化・人口減少の『最先端の課題現場』」ならば、おそらく世界最先端の現場といえるだろう。
現在県では、「かごしま産業おこしへの挑戦」とする産学官連携などによる地域再生計画を実施しており、「食品関連産業・電子関連産業・自動車関連産業」を重点産業振興分野と位置付けている他、今後成長が期待される「環境・新エネルギー産業」「健康・医療産業」「バイオ関連産業」を新成長産業とし、県内企業の新たな事業参入を支援するとしている。この計画の中では、「高齢化社会への対応策として、安全かつ環境に優しいモビリティ(移動手段)や作業・歩行などを補助するロボットなどに対する関心の高まり」にも言及されている。
肝付町で人々の生活に密着したICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)、ロボットといった活用の取り組みが行われていることは、日本中、世界中の高齢者が安心して、充実した生活を送るためのリアルな事例となる。宇宙に近い小さな町の活動は、将来を支える可能性を秘めている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「地方発!次世代イノベーション」連載一覧
- 伝統産業と清流の国のインダストリー4.0――岐阜イノベーション工房プロジェクト(岐阜県)
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第20回。岐阜県で2018年度からスタートする、製品・サービスのイノベーション創出を推進するための人づくりプロジェクト「岐阜イノベーション工房プロジェクト」を紹介する。 - 産学官民連携の知・交流・人材育成拠点――高知県産学官民連携センター(高知県)
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第19回。高知県で行われている、産学官民連携に関する相談窓口や交流機会の創出、人材育成研修などの取り組み「高知県産学官民連携センター」を取り上げる。 - 基盤技術企業の強化で安定雇用へ――高付加価値型ものづくり技術振興雇用創造プロジェクト(岩手県)
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第18回。岩手県による雇用構造改善のための取り組み「高付加価値型ものづくり技術振興雇用創造プロジェクト」を紹介する。 - IoTビジネスを自立させる「ふ化器」――富山県IoT推進コンソーシアム(富山県)
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第17回。IoTに関する情報提供や、産官学の意見交換、人材育成などによって富山県内企業のIoTの導入促進を図る取り組み「富山県IoT推進コンソーシアム」を取り上げる。