IoTビジネスを自立させる「ふ化器」――富山県IoT推進コンソーシアム(富山県):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第17回。IoTに関する情報提供や、産官学の意見交換、人材育成などによって富山県内企業のIoTの導入促進を図る取り組み「富山県IoT推進コンソーシアム」を取り上げる。
イノベーションの概要
2017年9月、富山県は「富山県IoT推進コンソーシアム」を設立した。「企業、高等教育機関、産業団体、産業支援機関、行政などが互いに交流しながら、IoTやビッグデータ、AIなどの導入活用に関する情報提供や意見交換、交流する機会を設け、県内企業などの生産性向上や新たなサービス・付加価値の創造、IoT人材の育成を目指す」取り組みで、「個々の企業などがIoT活用のビジネスモデルを確立し、独り立ちしていくための、『卵のふ化器』となるよう活動」するとしている。
業種にかかわらずIoTへの関心、期待は大きく、設立時点で244(企業・団体など)であった会員数は、2017年11月末時点で285に増加。約4割は非製造業である。
入会申し込み時のアンケートでも、IoT化に「既に取り組んでいる」のは、製造業の約22%、非製造業の約33%、「1年以内に取り組む」との回答は同様に約13%、9%、「時期は未定だが取り組む」との回答はどちらも4割を超え、製造業、非製造業ともに約8割が取り組む意向。IoT化による影響については「既に大きく影響している」との回答が10〜15%である一方で、「これから影響が出てくる」と考えているのは製造業の約62%、非製造業の約71%で、必要性や効果に対する認識の高さが伺える。
コンソーシアムでは、まず富山県新世紀産業機構「よろず支援拠点」に個別相談窓口を設置。また講演会や交流会のほか、2016年7月に選定された「地方版IoT推進ラボ」の支援制度も活用し、「生産性向上」と「新たな付加価値の創造」などをテーマとするワークショップを開催している。会員企業の若手技術者などが組織の枠を越えて集う「青年委員会」の活動も開始しており、製造業やITベンダー、大学教員など、14人の委員が「企業間連携」と「社会課題解決」の2つのテーマについて、現状把握やIoT活用の可能性の検討に取り組んでいる。
イノベーションの地域性〜富山県といえば……
富山県には、3000メートル級の山々が連なる「立山連峰」、日本一深いV字型の峡谷「黒部峡谷」、日本一のアーチ式ダム「黒部ダム」、水深1000mを超える富山湾と蜃気楼(しんきろう)、世界最古の海底林など、壮大かつダイナミックな自然・景観を有する。
有名な「富山の薬売り」は300年以上前から行われていると言われ、2015年の薬事工業生産動態統計年報によると、医薬品生産金額、人口1万人当たり医薬品製造従業者数、人口10万人当たり医薬品製造所数ともに、富山県が全国1位である。工業系ではアルミサッシ・ドアの出荷額が全国1位で全国シェアの35%以上、農業系では、耕作面積に占める水田の割合を示す水田率が全国1位で95%を超えている。
持ち家率(約8割)、一住宅当たりの延べ面積、一世帯当たりの室数ともに全国1位、道路整備率も1位で、住環境が豊かなのも富山県の特徴。共働き世帯が多く比較的家計も豊かで、新しいものを積極的に取り入れる県民性でもあり、家事や仕事の課題を解決してくれるIoT機器やサービスが登場すれば、加速度的に広がる可能性を秘めているのかもしれない。
ここに注目! 編集部の視点
富山県では、2016年度に「富山県IoT活用ビジネス革新研究会」を設立し、議論を重ねてきた。その結果設立したのが、IoT導入・活用促進のための仕組みとしての同コンソーシアムである。
県では2017年から「とやまIoTビジネスアイデアコンテスト」も開始し、「IoTを活用した地域課題の解決につながる富山県の未来を創造するビジネスアイデア」を募集。IoT推進コンソーシアム第2回大会と合同で、今年2月に表彰・発表会が行われた。例えば学生の部の最優秀賞は、メータに表示された数値を画像処理により読み取って、情報をWebサーバにアップロードして管理するIoTキット。既存のメータに取り付けられるので、低コストで一般家庭に導入しやすく、人手不足の解消にもなるというアイデアである。
また2017年度から、モデル的なIoTの取り組みを支援する「富山県IoT導入モデル事業費補助金」、中小企業向け制度融資には1000万円を上限に実質無利子で融資を受けられる「IoT支援特別資金」を創設し、支援策も強化。「生産性向上・付加価値創出促進モデル構築事業」では、県内企業のIoT活用などの企画案について、大学などの協力を得て実証実験を行う。
富山県は、IoT化の卵を温めて育てるコンソーシアムを核に、県内企業がIoTを活用したビジネスモデルを確立して独り立ちし、最終的には「企業間連携による生産性向上、新たな付加価値創出につなげる『Connected Factory 富山』」として自立することを目指して、走り出している。
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