インテルの枷が外れたウインドリバー、組み込みOSの老舗はIoTで本気を出せるか:IoT観測所(44)(3/3 ページ)
2018年4月、インテルの傘下を外れることが決まったウインドリバー。これは、組み込みOSの老舗である同社にとって、IoT市場に本格的に参入するきっかけになるかもしれない。
インテルにとってウインドリバーは重要ではなくなった!?
ただ実のところ、この戦略はうまく行ったとは言い難い。Wind River Pulser Linuxは現在も提供されている(Wind River Pulser LinuxのWebサイト)が、Wind River Rocketは最終的にLinux Foundation傘下の「Zephyr Project」に統合されてしまった(図3)。
おそらくこのタイミングで、と思われるが、Wind River Helix App Cloudも提供を終了している。なぜか、というのは簡単である。Wind River Rocketは要するにインテルのIoT戦略に沿ったものであり、インテルのIoT向けプロセッサであった「Quark」や「Galileo」が当初のターゲットで、将来的には「Edison」や「Curie」などもターゲットに含まれるはずだった「らしい」。これらのIoT向けプロセッサを利用するためのOSとクラウド接続性を提供するというのが目的であり、2009年以来インテルの傘下にあった同社としては当然のラインアップである。
ところがインテル自身がIoTビジネスから半ば撤退(「Quark SoC」そのものはまだ提供中だが、これをベースにしたGalileoやEdison、新しいCurieなどは全て販売終了になっている)したことで、Wind River Rocketもその存在意義が無くなってしまったからだ。当然インテル傘下とあっては、Armの「Cortex-M」ベースMCUへのポーティングはそれほど積極的に行われるわけもなく、ひっそりと消えることになってしまった。
では逆にインテルの傘下でウインドリバーは何をやっていたのだろうか。もちろん、従来の同社の顧客に対して製品を提供し続けるというビジネスは継続していたわけだが、これとは別にインテルのIVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報機器)向けのOSやミドルウェア、「Xeon」をベースにしたSDN(Software Defined Network)向けソフトウェア(これは「Wind River Titanium」というブランドで現在も提供中)などを手掛けていた。
ただしインテルのフォーカスエリアが、こうしたIoTやネットワークから、AI(人工知能)や、AIを利用した自動運転技術といった方向にシフトしてきたことで、ウインドリバーを傘下に置いておくメリットがどんどん薄れてきたということだろう。TPGキャピタルへの売却金額は不明だが、これで大もうけできたとは考えにくい(というか、普通に考えれば損であろう)。
まぁそうしたインテル側の思惑はともかくとして、ウインドリバー側からすれば、これでインテルの制約を離れて、あらためて自由に戦略を立てられるようになった。昨今はRTOSが幾つも登場してきているが、VxWorksはBSPの数という意味でも、機能という意味でも、こうした新しいRTOSに引けを取らないというか、十分にアドバンテージがある。
Wind River Helix App Cloudに関して言えば、現在はデバイス管理と後は自動車向け(これはインテル傘下だった影響が大だろう)になっているが、インテルの傘下から外れたことで既存のIoTクラウドとの連携を取るソリューションの提供への道が開けたとも思える。そういう意味では、今回の売却によって、ウインドリバーにIoTマーケットへの本格再参入への道が生まれた、と考えていいのではないだろうか。
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