“組み込みを組み込まない”時代へ、ウインドリバーが仮想化基盤を提供:組み込み開発ニュース
ウインドリバーは、電力プラントや工場などの制御システムの仮想化を実現するソフトウェアプラットフォームを提供する。古い制御システムを低コストで簡単にIoT対応にすることなどが可能となる。
ウインドリバーは2017年3月24日、制御システムを低コストで進化させられるソフトウェアプラットフォーム「Titanium Control(タイタニアムコントロール)」を発表した。
古い設備機器のIoT化を低コストで実現
産業用制御機器やシステムは20年や30年利用し続けるのが当たり前の世界であり、古い設備については当然ながら、IoT(モノのインターネット)に対応するのが難しいという課題があった。さらに、多くが柔軟性のない専用システムとなっており、実装やメンテナンスに高いコストが生まれていた。そのため新たなシステムが望まれてきていたが、既に稼働しているシステムであり、大きな投資が難しいという状況が生まれている。
新プラットフォームは、工場や電力プラントなどで利用されている制御システムを対象としたオンプレミス型のクラウド基盤である。このプラットフォームを用いることで、既存の古い設備でもソフトウェアによって異種環境差を吸収して、データ連携が実現できるようにしたり、同基盤を通じて連携した仮想マシンによる機器制御を実現したりすることが低コストで実現できるという。
米国Wind River(ウインドリバー)インダストリアル担当ソリューション ダイレクター リッキー・ワッツ氏は「IT(情報技術)とOT(制御技術)を統合する動きが加速しており、クラウドとエッジのシステムをシームレスに接続することが求められている。その中で既存のレガシー化しているシステムをいかに効率よくアップグレードし、そこから生まれてくるデータを収集して活用するということが求められている。新基盤はこれを支援するものだ」と述べている。
フォグ領域に設置
同基盤はオープンスタンダードをベースにしており、物理サブシステムを仮想化する。例えば、工場などであれば、工場内サーバに同プラットフォームのソフトウェアをインストールすれば、システムの仮想化が行えるようになる。以下の図表の背景が赤の領域に設置する。
同プラットフォームは各種機器などがあるエッジ領域と、情報分析などを行うクラウド領域の中間であるフォグ領域に設置するが、主にこの仮想化基盤を制御する「コントロール」領域と、実際にアプリケーションや処理などを実行する「コンピュート」領域、データの記録を担う「ストレージ」領域で構成されている。同基盤を通じて、クラウド環境に置いた仮想マシンと接続し、制御そのものは仮想マシンから行いそこで得られたデータを分析してフィードバックをかけるというようなシステム構成なども容易に実現できる。
ワッツ氏は「ITの世界では仮想化が既に多くの領域で進んでいるが、OTの世界でも今後急速に仮想化が進むと見ている。全てが機器からシステムまで一貫して提供する時代ではなく、仮想基盤でのソフトウェア変更により柔軟にシステムが変えられるようにしていくべきだ。例えば、PLCなど現場の制御を行う場合でリアルタイム性が高いものとしてはスタンドアロンの制御機器として開発する必要があるが、リアルタイム性がそこまで必要なく、システム変更が多かったりデータ分析を高い頻度で行う場合などはクラウド上の仮想マシンとして制御する方が効果的な場合もある」と述べている。結果的に機器内に組み込む領域はある程度限定されていくという考えだ。
同基盤は既に商用ベースとなっており、一部の企業でトライアルおよびPoC(概念実証)としての導入実績があるという。納入先は最終的には工場やプラントなどになるが、同社としては直接的なルートはないため「販売についてはPLCなどのデバイスメーカーや制御システムのシステムインテグレーターに提案を進める。各種デバイスの将来性としてスマート化の実現を提案したり、既存システムのマイグレーション(先進システムへの移行)需要などを獲得していきたい」とワッツ氏は述べている。
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