「組み込みOS無償提供」で変わるウインドリバーの戦略
航空宇宙などミッションクリティカルな分野で高い評価を得る「VxWorks」などで知られるウインドリバーが、クラウド対応組み込みOSの無償提供に踏み切った。その狙いを米Wind Riverのプレジデントが語る。
クラウド対応OS「Wind River Rocket」「Wind River Pulsar Linux」とクラウド「Wind River Helix Cloud」の無償提供を発表した米Wind River(関連記事:ウインドリバーがクラウド対応RTOSなど無償提供、クラウド開発環境も無償で)。
同社は組み込み機器に向けて「VxWorks」「Wind River Linux」の2つのOSを有償にて提供しているが、新たなOSとクラウド環境の提供によって同社の製品戦略はどのように変化していくのか。来日した米Wind Riverのプレジデント、バリー・マインツ(Barry Mainz)氏が説明した。
まず既存OSの2つについて確認するといずれも組み込み機器向けのOSであることに変わりはないが、VxWorksは航空宇宙分野などに定評あるリアルタイムOS(RTOS)であり、Wind River LinuxはYoctoをコアにしたより大規模なシステム(高機能CPU搭載システム)を対象にしたOSと位置付けられる。
そして新たに登場したRocketとPulsarだが、RocketはVxWorksより小さな規模(のMCU)を対象にしたリアルタイム処理向け、Pulsarはバイナリ提供されるWind River Linuxのサブセット的な位置付けだ(最小フットプリントがWind River Linuxの750MBから300MBに小さくなっている)。主な用途としてマインツ氏は、RocketはIoTのセンサーデバイス、PulsarにIoTゲートウェイを挙げる。
必要とするフットプリント順に並べると、Wind River Rocketは4Kバイト、VxWorksは200Kバイト、Wind River Plusar Linuxは300Mバイト、Wind River Linuxは750Mバイトとなっており、新たに登場した2つのOSがIoTの入り口(センシングデバイス)と中継点(ゲートウェイ)を狙っていることが分かる。
Wind Riverが提供する組み込みOSは「Wind River Rocket」と「VxWorks」「Wind River Pulsar Linux」「Wind River Linux」と4種類に拡大される
もちろん、VxWorksとWind River LinuxもIoTに利用できるが、バリー氏は同社の強みを生かしたIoT戦略として「エッジデバイスの拡大」「クラウドを利用して常に開発できる環境の実現」「社会インフラのクラウド対応」の3つが重要になると語り、1点目に当たるエッジデバイスの拡大を図るため、OSバリエーションの拡大が必要だとした。
「フォーカスしているのは“安全で信頼性のあるソフトウェアの実現”あり、これまでは組み込みOS中心にこれらの要望に応えてきたが、IoTという時代の要請に対応していかなければならない。中核にあるのはRTOS、オープンソース、信頼性の高いシステムの3つで、これをクラウドで支えるというかたちを考えている」(マインツ氏)
OSの拡大と同時に同社が提供するクラウド環境は、開発環境「Wind River Helix App Cloud」、デプロイ前のシミュレーションとテストを行う仮想環境「Wind River Helix Lab」、デプロイ済のIoTデバイスとそのデータを管理する「Wind River Helix Device Cloud」で構成される。
新たに発表されたHelix App Cloudは、SDKなどを含む開発環境をWebアプリケーションとして提供する。これによりグローバルな開発体制を採る組織や、外部のデベロッパーとの共同作業が効率的に行えるようになる。また、こちらも新提供となるHelix Lab Cloudはアプリケーションをデプロイ前に複数機器で動作をシミュレートでき、こちらも、組織を越えた共同作業を行える。
つまり、App/Lab/Deviceと3つのクラウドサービスを利用することで、IoTアプリケーションの開発/検証/管理を循環させ、また、同時にデバイスに適したOSのバリエーションを拡大することで、顧客の迅速な製品投入を支援するというのが同社の狙いとなる。同社のクラウドにかける期待は高く、マインツ氏は5年後を目標に、クラウド関連ビジネスを組み込みソフトウェアの3倍にまで引き上げる計画だという。
ただ、“IoTのカタチ”はまだ主流が見えておらず、同社やインテルなどが意図するゲートウェイ経由ではなく、エンドデバイスがゲートウェイを介さず直接、クラウドに接続されるというビジョンが主流となる可能性もある。またコンシューマー製品の領域ではIoTの収支化はまだ見えていない。「5年後の躍進」をどう実現するのか。
「顧客は“今使うソリューションを求めている”のであって、ゲートウェイを重視するのはその要望があるからだ。私たちは価値を提供することで存在価値を示したい。IoTのあるべき姿を示すのではなく、顧客の課題を解決することが私たちのスタンスだ。それにビジネスモデルも変わりつつあり、クラウドからの収益も順調だ」
「早期の収益化見通しで言えば産業向けが有望なのは間違いないが、Rocketについてはコンシューマー領域でも活用されるのではないかと考えている。そのための無償提供であり、日本企業から数千件の規模でダウンロードされていることを確認している」(マインツ氏)
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