QAネットワークとAIの適用:IoTによって製品品質を向上する(4)(2/2 ページ)
IoTの活用が広がりを見せていますが、上手に活用すれば製品品質の向上につなげることも可能です。本連載では、最新の事例を紹介しながら、IoTを使って製品の品質をどう向上させるかについて説明していきます。第4回となる今回は、「QAネットワークの最新動向とAIの適用」をテーマに解説します。
QAネットワークのパイロットプロジェクト
KPMGコンサルティングでは、ある会社でこのQAネットワークを活用し自工程完結の体制を効率良く正確に構築できないかとパイロットプロジェクトを開始しています。そのエッセンスを紹介します。
図2は、不良件数半減を目指すプロセスです。QAネットワークから改善策を適用していった場合の、自工程完結レベルの変化を事前に予測しようとしています。
プロセス1のコネクター接続作業で、図1のようなQAネットワークから“+ +”になるように改善策を選定しています。プロセス2はねじを締めるという作業で、プロセス1の発生防止策の「接合方法」などは、共通の施策になる場合があります。この縦軸の、共通のプロセスから施策の選定、または横軸の改善施策のレベルを向上することが求められます。ここでベテラン技術者の英知や経験に頼ることなく、効率良くかつ深くなるような仕組みを作ることが目的です。人に頼っていた部分を、デジタル技術で構築するのです。
QAネットワークにAIを適用する
このチャートが、AI(人工知能)のニューラルネットワークと似ているので、QAネットワークを機械学習で運用できないかを検討しました。機械学習といってもかなり幅が広いですが、今回は画像・音声・センサーで取ったデータなどは外し、テキストを用いた自然言語処理を用いています。図3はそのアーキテクチャを説明しています。
上段はビッグデータの集計エンジンで、開発段階で発生した社内の不具合情報と、インターネット上に存在する市場不具合情報を集計し、自工程完結レベルと改善策のマトリックス指標から、品質向上策の推奨リストを各ゲートで提案するという仕組みです。これは「教師なし学習」となってしまい多くのデータを集めないと、精度の高い推奨リストは作れません。現在、多くの自然言語処理を用いた仕組みがデータの不十分さによる理由で、実用段階にまで至っていないのは、同じ理由だと思います。
そこで、現状の現場にあるノウハウの中で、自然言語処理のデジタル処理に乗せやすいものを検討しました。「べからず集」や「チェックリスト」は、フォーマットや内容がそれぞれ違うため、整合・構造化できていませんが、「QAネットワーク」なら、入力と出力を定量化し、グローバルで同じフォーマットとプロセスで運営されています。そのため、AIへの読み込みが容易であると想定し挑戦してみました。
自然言語処理のエンジンは簡単に作れるため、こだわる必要はありません。オープンソースで入手できるTensorflowなどで十分です。難しいのは、コーパスと呼ばれるAI向けの辞書と、品質施策の推奨アルゴリズムです。コーパスは、その会社でしか使われない言葉、自動車業界の用語、社内の設計マニュアルなどを読み込ませていきます。さらに、不具合情報を入手する工夫も必要です。3つのフェーズに分け、過去・現状レベルの施策をQAネットワークのアップデートで、新規で出てくる不具合などは、製品開発の大部屋で入手するのがいいことも分かりました。このプロセスは「教師あり学習」となり、ビッグデータと組み合わせることで効率よく確認リストの蓋然性を上げることができます。
この自然言語処理とQAネットワークを組み合わせた品質向上の仕組みは、いくつかのプロジェクトで実施を検討しています。特に、昨今の品質不具合を多発している日本企業で、品質改善策を効率よく、かつ精度高く、そして短時間に構築していくためには、考慮しないといけない施策の1つだとだと筆者は考えています。
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