3列シートの大きなボディーで「運転の楽しさ」は実現できるか:乗って解説(3/3 ページ)
ミニバン「ビアンテ」の生産が終了した今、「CX-8」はマツダで唯一、3列シートの7人乗りを実現するクルマだ。2017年12月に発売後、1カ月で事前予約を含めて1万2000台の受注を獲得したという反響の大きさの通り、このシートレイアウトには、大いに意味がある。
運転を楽しめる3列シート車
後日、ドライ路面をサマータイヤのCX-8で走ってみて、またこのクルマに対する印象を新たにした。
パワーユニットは従来の排気量2.2lのディーゼルエンジンをベースに、2ステージターボを可変ジオメトリータービンとするなど、さらに柔軟で緻密な制御を可能にしている。この車格で大人4人乗車でも全くトルク不足は感じない(クリックして拡大)
雪上の試乗では、2速3速という低速ギアでエンジン性能をチェックしたため、車速の割にエンジン回転が上昇してディーゼルらしいエンジン音が伝わってきた。車速が高まれば風切り音など別の騒音成分が高まるが、車内外を流れる空気による遮音も高まるため、車内は断然静かになった。静粛性に対する評判の高さに納得がいく。
排気量2.2l(リットル)のディーゼルエンジンはトルクフルで、2ステージターボの立ち上がりも良く、発進から中間加速、高速域での追い越し加速のようなシーンも含めて、あらゆる状況でアクセルの動きに瞬時に反応する。4輪を踏ん張らせて力強く加速していく印象だ。これなら大人6〜7人乗っても加速性能に不満を覚えることはないだろう。大人3人乗車で、適度なアップダウンと緩いワインディングが続く郊外の一般道をそれなりのペースで走っても、燃費は13km/l(リットル)だった。単価の安い軽油であることを考えると燃費も相当に良い。
ブレーキはペダルのストロークが少なめで、踏み込んでいくと硬めのしっかりとした抵抗感がある。そこからは踏力に応じて制動力をコントロールできるようになっており、従来のストロークが大きめなブレーキに慣れているドライバーには少々硬いタッチに戸惑うかもしれない。しかし慣れれば断然こちらの方が扱いやすく、思い通りの制動力を引き出すことができるだろう。
ステアリングの応答感も好ましい。旋回中心はややリア寄りで、ホイールベースが長い3列シート車らしい重厚感を感じさせながら、十分に素直でスポーティなハンドリングを見せてくれる。ただしレーンキープアシストは、道路幅がそれなりのワインディングでは介入を煩わしく感じることもあった。そんな時は機能をオフにしてアシストのない操舵(そうだ)を味わえばよい。
また、夕刻にALH(アダプティブLEDヘッドライト)を試す機会もあった。14個のLEDの点灯を4ブロックに分けて点灯を制御することにより、先行車や対向車のドライバーを幻惑することなく、夜間の視界を広く確保してくれた。忙しなくハイビームとロービームを切り替えることに神経を使わないで済むから、夜間のドライビングが格段に快適になる。オートハイビームでは、ハイビームからロービームに切り替わった時に一気に前方視界が狭まる懸念があるが、ALHならば視界を確保しつつも対向車には迷惑なハイビームではなくなるのでありがたい。
CX-8の大きさを感じさせない自然なフットワークは、いつまでも運転していられるような、飽きない性質のものだ。3列シートのクルマでこれだけ運転が楽しめるクルマは、そうはない。CX-8のオーナーは、これまでと異なるドライビング体験を楽しみながら、家族に快適な移動を提供できるだろう。
ラインアップからミニバンを廃止し、SUVのCX-8で3列シート需要をカバーしようとしているマツダ。走る歓びと使い勝手を兼ね備えたCX-8は、マツダの狙い通りに7人乗りミニバンのポジションを引き継いでいけそうだ。
筆者プロフィール
高根 英幸(たかね ひでゆき)
1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。輸入車専門誌の編集部を経て、現在はフリーランス。実際のメカいじりやレース参戦などによる経験からクルマや運転テクニックを語れる理系自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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