自動車業界が5Gに手のひらを返した「MWC 2018」、そしてDSRCとの選択が迫られる:次世代モビリティの行方(2)(3/3 ページ)
これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第2回は「Mobile World Congress 2018」の自動車関連の動向をレポートする。
エッジコンピューティングに期待するトヨタ
エッジコンピューティングへの期待を最も強く述べたのがトヨタ自動車だ。トヨタ自動車は、クルマとクラウド間で送受信されるデータ量が2025年には毎月10エクサバイト(現在の約1万倍)になると予測される中、今後は大容量ネットワークに加え、分散型ネットワークや、膨大なデータ処理を実現する計算リソース及びストレージが必要になるとの見解を示した。
また、グローバル企業である自動車メーカーにとって、サプライヤーなどが所在する地域と展開先の地域との連携は必須であり、そのためにはシステム構成の国際基準の必要性を訴えている。2018年1月に創設した「Automotive Edge Computing Consortium(AECC)」も、自動運転向けエッジコンピューティング技術の標準化を目的としており、トヨタ自動車の他にデンソー、エリクソン、インテル(Intel)、NTT、NTTドコモ、トヨタIT開発センターが名を連ねている。その後2018年2月にはKDDIとAT&Tも加わるなど参画企業を増やす取り組みを進めている。
これまでのLTEは、ダウンリンクとアップリンクの比率がおおよそ3:1だった。トヨタが注目しているのはアップリンク、つまり車両からクラウドに送信されるデータである。
5Gを採用すると、ダウンリンクとアップリンクの両方とも帯域が広くなる。トヨタ自動車はクラウドに収集されるデータを活用して付加価値を生み出したいと考えているのだが、一方で、莫大なデータ量をどう処理するかを課題としている。講演では、具体的にデータをどのように活用していくかについては語られなかったが、まずは増大するデータへの対応方法として、
- 本当に必要なデータのみをクラウドに上げる
- 可能なものはエッジで処理をして、エッジからクルマに戻すことでサーバの負荷を減らす
- リアルタイム性を必要としないデータについては、リソースが空いているときにバックグランドでデータ転送する
といったソリューションを検証していくとしている。
日本はこのままDSRCでいくのか
現在DSRCの採用が決定しているのは日本と米国(V2V)のみであり、中国や欧州はC-V2Xの採用がほぼ決まっている。また、C-V2Xは現在LTEベースで実証実験が行われているが、2018〜2019年の間に5Gを活用したNR(New Radio)-V2Xの規格が策定される予定となっており、ダイレクト通信による車車間映像配信など、さらに活用の幅が広がることが想定される。
MWC 2018のカンファレンスでは、フォードが「15年もの間、802.11p/DSRCを推していたが、1年前にファンダメンタルシフトを行い、セルラーを支持していくことを決定した。方針転換はかなり難しかったが、全てのクルマがセルラーにつながるのは時間の問題であり、であれば、既にあるネットワークを活用するのが最善だとの判断に至った」と、5GAA加盟の経緯を語っていた。
日本としてもこのままDSRCで行くのか、セルラーを採用するのか、あるいは両方の搭載を義務付けるのか、判断が迫られる段階に来たといえる。
筆者プロフィール
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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