自動車業界が5Gに手のひらを返した「MWC 2018」、そしてDSRCとの選択が迫られる:次世代モビリティの行方(2)(2/3 ページ)
これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第2回は「Mobile World Congress 2018」の自動車関連の動向をレポートする。
「ネットワークスライシング」と「エッジコンピューティング」
C-V2Xの採用は通信事業者にとっても非常に大きなチャンスであることから、各社からさまざまなユースケースが紹介された。前述の通り決して単なるアイデアというわけではなく、これまでのビジョンが具現化に向けて動き出した段階といえる。そこでキーワードとなったのが「ネットワークスライシング」と「エッジコンピューティング」である。
「ネットワークスライシング」とは、無線/有線ネットワーク区間及びそれらの間に置かれるコンピューティングリソースを全て仮想化し、用途に応じてその構成を動的に組み合わせることである。物理的には同じシステム上にありながら、あたかも複数のネットワークシステムが存在しているかのようなアーキテクチャを実現する。利用するアプリケーションごとに帯域を担保できることから特にミッションクリティカルなソリューションにおける利用が期待されている。
「エッジコンピューティング」とは、クラウドよりも物理的に近い場所にサーバを分散させ、デバイスとの物理的距離を短縮することで通信遅延を短縮する技術である。またエッジサーバで計算処理することにより、端末側の負担を軽減し、高速なアプリケーション処理も実現する。そのためリアルタイム性の高いサービスの展開やビッグデータ処理などにおいても効果が期待されている。
オレンジ×エリクソン
フランスの通信キャリアであるオレンジ(Orange)は、スウェーデンの大手設備ベンダーのエリクソンと共同で、C-V2Xによるシースルーの実証実験をフランスのリュールで実施した。視界を遮るクルマの前方の状況を、C-V2X通信を用いて動画ストリーミングにより把握するというものだ。
この実験にはLTEとネットワークスライシングが使われている。安全性確保のため必要な動画ストリーミングデータの伝送には広帯域と低遅延を担保しつつ、エンターテインメント用の動画や音楽といったアプリのダウンロードに利用する帯域とを区別している。また動画ストリーミングデータの通信遅延を短縮するエッジコンピューティング技術も同時に使われている。
ノキア×BMW
ノキアはBMWと共同で、事故など緊急事態発生時に、緊急車両向けスライスをリアルタイムに構築する、ネットワークスライシング技術を活用した将来の都市交通における緊急対策のソリューションを紹介した。
デモでは、街に設置された監視カメラがとらえたトラック横転及びガソリン流出事故画像について、歩行者などからの通報情報を基にAI(人工知能)が重大事故と判断し、緊急車両やドローンなどによる動画配信向けネットワークスライスを自動的に構築するというものである。
一方で周辺を走行する一般車両には、「自動運転」「HDマップ」「インフォテインメント」に活用するデータの送受信が想定されているが、この中で「自動運転」については安全性の観点から帯域を担保する必要がある。そのような周辺のトラフィック状況も含めてAIが総合的に判断し、HDマップやインフォテインメントといった、クリティカルでないものについてはその帯域を自動運転向けにリアルタイムに割り当てるというものである。
なお、事故処理が完了すると、緊急車両向けのネットワークスライスは自動的に解除される。ノキアはスマートシティーや警察や救急などのFirst Responder向けソリューションとして展開していきたいとしている。
ノキアとBMWによるネットワークスライシングのデモ。写真内の左上は、一般車両のマルチディスプレイを想定。自動運転、3Dマップ、インフォテイメント用にディスプレイを割り当てて、緊急車両用のスライスを作る前と作ったあとのストリーミング状況をデモ展示した(クリックで拡大)
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