新型「aibo」が象徴する、「自由闊達にして愉快なる」ソニーマインドの復活:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(7)(6/6 ページ)
2018年1月11日からソニーストアで販売が開始された、ソニーのエンタテイメントロボット「aibo」。先代「AIBO」の製品開発終了から12年を経て復活したaiboだが、どのようにして開発が進められたのか。小寺信良氏が探る中で見えてきたのは、ソニーが取り戻しつつある、創業当時の「自由闊達にして愉快なる理想工場」の雰囲気だった。
「遊び心が思いっきり前に出た商品ができた」
―― 発表から4カ月、aiboは今のソニーを象徴する製品となりました。皆さんとしては、プレッシャーのようなものを感じていらっしゃるんでしょうか。
矢部 あんまり固く考えてないという言い方も変ですけれども、例えば111(11月1日や1月11日)にこだわったりとか、イキオイとかノリで決めてるみたいなところがあったり。これからもそういうところは大事にしていきたいですね。
松井 責任、役割の重さはありますけれども、すごく遊び心が思いっきり前に出た商品ができたかなと。プロジェクトにいる人たちの遊び心が、結構ふんだんに入ったんですよね。それが表に出てくるような商品が作れたというのは、ある意味古き良きソニーの、ちょっと遊び心がある製品ができたという思いの方が、僕は強いですね。
矢部 例えば、オスとメスの設定ができるんですけれども、何なら「今回のaiboはオスです」と言っても良かったんですよ。オスメスの設定ができるから何なのって言うと、声の高さがちょっと違うとか、おしっこの仕方が違うだとか、細いけどそこまでやるから面白いよねっていう。そういう無駄なことやるんだったら他のとこやっとけよって突っ込みたくなるのかもしれないですけれども、「そこまで行っとこうぜ」みたいな、遊び心とかノリとかそういうのは随所にあると思っていますし、今後もありますよねきっと。
ソニーの創業者である井深大氏が記した設立趣意書の、目的の一番目には、「一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とあるのはよく知られた話である。
では今もソニーはそうなのか。経営的に厳しさが増した過去10数年は、なかなかそうはいかない部分はあっただろう。だが、aiboのプロジェクトでは、CEOが足しげく現場に通い、開発者とさまざまなアイデアを出し合いながら、実際にその意見が製品に反映されていった。まさに創業当時の「自由闊達にして愉快なる理想工場」の雰囲気を取り戻した瞬間であったろう。
2018年2月2日に行われた決算報告では、2018年3月期の利益予想を7200億円に上方修正し、営業利益は20年ぶりに過去最高を更新する見通しとなった。勢いのあるソニーが、戻ってくる。
おそらくaiboは、あの時代の頂点にもう一度登ってみる、そういう意味合いのプロジェクトなのだろう。そして同じところに立ち、さらに上を見上げたときに、何が見えるのか。
ソニーは2018年4月1日付で、社長兼CEOを交代する人事を発表した。現職の平井一夫氏は会長に引き、現副社長兼CFOの吉田憲一郎氏が新社長兼CEOに就任する。吉田氏はCFOとして「決算の人」と思われがちだが、2000年からソニー・コミュニケーションネットワークへ出向し、数々のネットビジネスをスピード立ち上げてきた。
aiboは、ソニーと顧客がクラウドでずっとつながり続けるビジネスだ。どんどん新製品に買い換えてもらうビジネスとは、性質が違う。平井氏が種を捲き、吉田氏が育てるという流れの、最初のビジネスということになる。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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